鵜飼
横光利一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)所謂《いわゆ》る
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 どこかで計画しているだろうと思うようなこと、想像で計り知られるようなこと、実際これはこうなる、あれはああなると思うような何んでもない、簡単なことが渦巻き返して来ると、ルーレットの盤の停止点を見詰めるように、停るまでは動きが分らなくなるという魔力に人はかかってしまう。動くのと停るのと、どこでどんなに違うのかと思う暇もなく、停ると同時に早や次の運動が波立ち上り巻き返す――これは鵜飼の舟が矢のように下ってくる篝火の下で、演じられた光景を見たときも感じたことだが、一人のものが十二羽の鵜の首を縛った綱を握り、水流の波紋と闘いつつ、それぞれに競い合う本能的な力の乱れを捌き下る、間断のない注意力で鮎を漁る熟練のさ中で、ふと私は流れる人生の火を見た思いになり遠く行き過ぎてしまった篝火の後の闇に没し、手さぐりながらまた考えた。思想の体系が一つの物体と化して撃ち合う今世紀の音響というものは、このように爆薬の音響と等しくなったということは、この度が初めでありまた最後ではないだろうかと。それぞれ人人は何
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