ア』と啼く、其處へ他の一羽が犬の横からつうい[#「つうい」に傍点]とやつて來る。
子供も浮かれて犬と共に走つた。そして犬と一緒に舟に縋《すが》つて舳へ手をあげる。もう少しで鴉にとどくのである。下手をして、眼でも突つかれては大變だと頻りに氣を揉んだが、そんなこともなかつた。
今日である。少し考へごとをしながら私は一人濱に出た。そして例の松の蔭の休み場に休んでゐた。松の皮が頻りと落ちて來る。ぢいつと眼を擧げると、これも今日は一羽、例の鴉が其處に來てゐる。啼きもしない。
『此奴、親爺まで犬と一緒にしてゐる』
と苦笑されたが、われ知らず何か言ひかけたい氣にもなつた。
底本:「若山牧水全集第八巻」雄鶏社
1958(昭和33)年9月30日初版1刷
入力:柴武志
校正:小林繁雄
2001年2月8日公開
2004年8月30日修正
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