は茶をたてる茶碗のなかのかすかな響に似てゐる謂であらう。
松虫鈴虫はあまりに月並化されてゐる。ではどの虫が好きだらうと考へて来ると私には先づ馬追虫である。
いつも田舎住ひをしてゐる難有《ありがた》さに、この虫がをりふし蚊帳にとんで来てとまつて鳴くのを聞く。
やすらかに足うちのばしわが聞くや蚊帳に来て鳴く馬追虫を
めづらしく蚊帳に来ていま鳴き出でし馬追虫の姿をぞおもふ
家人のねむりは深し蚊帳にゐて鳴くうまおひよこゑかぎり鳴け
底本:「日本の名随筆 94 草」作品社
1990(平成2)年8月25日第1刷発行
底本の親本:「若山牧水全集 第七巻」雄鶏社
1958(昭和33)年11月
入力:増元弘信
校正:もりみつじゅんじ
2000年7月26日公開
青空文庫作成ファイル:
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