に五六本
 青い大根の葉がみえる
 大根の蔭からパラパラパラ
 砂をまいたよに
 空の青いのに
 雀がちゆんちゆとまひたつた


八兵衛と兎

 八兵衛《はちべゑ》 なまけもの
 お嬶《かか》に叱られて
 鐵砲かついで
 お山に出かけた

 八兵衛 近眼《ちかめ》
 よぼよぼの爪先《つまさき》に
 兎を三疋
 見つけた

 八兵衛 有頂天《うちやうてん》
 鐵砲おろして
 一發ずどんと
 身構へた

 八兵衛 あわてもの
 お嬶《かか》に叱られて
 家《うち》を出るとき
 とんと彈丸《たま》を忘れた

 兎 横着《わうちやく》
 それと見てとつて
 逃足かへして
 云ふことに

 八兵衛 はげあたま
 御飯《ごはん》のお釜の蓋とつて
 もんももんもと
 湯氣出した

 その湯氣なんになる
 草葉に宿つて露となる
 きらきら輝く露となる
 その露嘗めろ

 ウワツハツハ
 ウワツハツハ
 やアい八兵衛の禿頭
 禿げた處をなめて見ろ

 嘗《なア》めた なんの味
 澁い腐つた柿の味
 その柿捨てろ
 八兵衛の頭にぶつつけろ

 つうけろ つけろ
 禿げた處に土つけろ
 つけて見たれば草|生《は》えた
 ぴんぴん草がちよいと生《は》えた

 生《はア》えた 生《は》えた
 八兵衛の頭に毛が生《は》えた
 八兵衛|若《わアか》いぞ
 わアかいぞ若いぞ

 八兵衛もとより浮《うか》れ者
 いまは鐵砲投げすてゝ
 餅つく兎の腰つきで
 ウワツハツハ ウワツハツハ



底本:「若山牧水全集 第九卷」雄鷄社
   1958(昭和33)年12月30日発行
初出:「小さな鶯」弘文館
   1924(大正13)年5月
入力:小川幸子
校正:土屋隆
2009年4月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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