んで御無用、途方もなく面白く喋つた。
聽手は勿論頭から醉はされて了つて、母とお兼は既う二三度も繰返して聽かされて居るにも係らず矢張り面白いらしく熱心に耳を傾けて居る。特に最初から私の話對手であつた千代などは全然當てられて、例の瞳はいよいよ輝いて、ともすれば壞《くづ》れやうとする膝を掻き合はせては少しづつ身を進ませて、汗を拭いて、一生懸命になつて聽き入つて居る。お米の方はさすがにこの娘の性質で、同じ面白相に聽いては居たやうだが、相變らず默然とした沈んだ風で、見やうによつては虚心《うつかり》してゐるものゝやうにも見ゆる。顏も蒼白くて、鈍く大きくそして何となく奧の深かり相な瞳のいろ。眼瞼をば時々重も相に開いたり閉ぢたりしてゐる。山家の夜の更けて行く灯の中に斯うしてこの娘が默然として坐つてゐるのに氣が附くと妙に一種の寂しい思ひがして、意味深い謎《なぞ》でもかけられたやうな氣味を感ぜずには居られない。
語り終つて私は烈しく疲勞を覺えた。聽いて居る人もホツとしたさまで、一時に四邊《あたり》がしんとなる。僅かの薪はもう殆ど燃え盡きて居て、洋燈は切りに滋々《じじ》と鳴つて窓からは冷い山風がみつしりと吹き込んで來る。
母は氣附いたやうに、兩人の娘に中の間に寢るか次ぎの座敷に寢るかと訊く。何處でもと姉。中の間に一緒がいゝ、二人だけ別に寢るのは淋しいからと妹が主張する。では押入から蒲團を出して、お前達がいゝやうに布くがいゝとのことで、兩人は床とりに座敷に行つた。それを見送り終つて、
「あの事で來たんでせう。」
と低聲で私は母に訊いた。
「ア、左樣よ。」
「如何なりました、どうしても千代が行くんですか。」
「どうも左樣でなくてはあの老爺が承知をせんさうだ。あの娘はまたどうでも厭だと言つて、姉に代れとまで拗《す》ねてるんだけど、……姉はまたどうでもいゝツて言つてるんけど……どうしても千代でなくては聽かんと言つてる相だ。因業《いんごふ》老爺《おやぢ》さねえ。」
「まるで※[#「けものへん+非」、30−11]々《ひひ》だ。そんな奴だから、若い女でさへあれば誰だツていゝんでせう。誰か他に代理はありませんかねえ、村の娘で。」
「だつてお前、左樣なるとまた第一金だらう。あの通りの欲張りだから、とても取れさうにない借金の代りにこそ千代を/\と言ひ張るのだから。」
如何にも道理な話で、私にはもう
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