姉妹
若山牧水

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)女郎花《をみなへし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一寸|嬌態《しな》をして

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「片+總のつくり」、第3水準1−87−68]《まど》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例))だん/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 山には別しても秋の來るのが早い。もう八月の暮がたからは、夏の名殘の露草に混つて薄だとか女郎花《をみなへし》だとかいふ草花が白々した露の中に匂ひそめた。大氣は澄んで、蒼い空を限つて立ち並んで居る峯々の頂上などまでどつしりと重みついて來たやうに見ゆる。漸々《だん/\》紅らみそめた木の實を搜《あさ》るいろ/\の鳥の聲は一朝ごとに冴えまさつた。
 お盆だ/\と騷がれて、この山脈の所々に散在して居る小さな村々などではお正月と共に年に二度しかない賑かな日の盂蘭盆《うらぼん》も、つい昨日までゝすんだ。一時溪谷の霧や山彦を驚かした盆踊りの太鼓も、既う今夜からは聽かれない。男はみな山深くわけ入つて木を伐り炭を燒くに忙しく、女どもはまた蕎麥畑《そばばたけ》の手入や大豆の刈入れをやらねばならなかつたので何れもその疲勞《つかれ》から早く戸を閉ぢて睡《ね》て了つた。昨夜などはあんなに遲く私の寢るまでもあか/\と點いてゐた河向ひの徳次の家の灯も夙うに見えない。たゞ谷川の瀬の音が澄んだ響を冴え切つた峽間《はざま》の空に響かせて、星がきら/\と干乾びて光つて居る。
 私は書見に勞れて、机を離れて背延びをしながら※[#「片+總のつくり」、第3水準1−87−68]《まど》に凭《よ》つた。山々の上に流れ渡つて居る夜の匂ひは冷々と洋燈の傍を離れたあとの勞れた身心に逼《せま》つて來る。何とも言へず心地が快い。馴れたことだが今更らしく私は其處等の谷川や山や蒼穹《あをぞら》などを心うれしく眺め※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]した。眞實冷々して、單衣と襦袢とを透して迫つて來る夜氣はなか/\に悔[#「悔」はママ]り難い。一寸時計を見て、灯を吹き消して、廣い座敷のじわ/\と音のする古疊の上を階子段の方に
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