の森つゞきの木の下道(あとでその森が戸山學校であることを知つた)をくゞつて出外れて見て驚いた。おもひもかけぬ大きな平野が其處に開けてゐたのである。
まつたくその時の驚きはいま考へても可笑しい樣である。何しろ山と山との間の峽谷に生れて、今まで曾てさうした大きな野原をば見た事がなかつたのである。しかもそれが二三ヶ月以上もぐつしりとかぢりついて離れなかつた自分の學校のツイうしろから開けてゐやうとは、夢にも思ひがけぬところであつたからである。
驚きのあまり、授業の事をも忘れて私は恐る/\なほその小徑を野原の方へ歩いて行つた。そして行き着いたのが戸山ヶ原の櫟林《くぬぎばやし》であつたのだ。驚きはいつか一種の哀愁に變つて、足音をぬすむ樣にして私は其處に群立してゐる木から木の間の下草を踏み分けて歩き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つたものであつた。明治三十七年初夏のことであつた。
さうした大發見をした二三日後、私は直ぐ三番町を引上げて、今は早稻田高等學院が建つてゐる穴八幡下に在つた下宿に移つて來た。そして毎日々々私の戸山ヶ原散歩は始まつたのであつた。
斯ういふ記憶を呼び出しながら現
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