の晝にかけて啼く。降る日は聲が少ない。雨にふさふのは山鳩であらう。
 もう一つ、呼子鳥がある。これは一層よく筒鳥に似てゐる。矢張り文字には書けないが、先づ『ポンポンポンポンポン』と云つた風に啼きつゞける。筒鳥より聲も調子も小さく聞える。これは夕暮方によく啼いたとおもふ。
 すべて若葉に山の煙るころから啼きそめる鳥である。榛名山に登る時、ずつとうち續いた小松の山の大きな傾斜に松のしんがほのぼのと匂ひ立つてゐるなかに聞いた郭公なども忘られ難い。奧州で豆蒔鳥と呼ぶのはこの郭公のことらしい。
 若葉といひ、松のしんといひ、うちけぶつた五月晴の空といひ、そんなことを思ひ浮べると、どうしてもこれらの深山の鳥の啼く聲が身に浸み響いて來てならない。いま手をつけてゐる忙しい爲事を果したら早速三河の鳳來寺山に登るつもりである。この山は古來佛法僧の棲むので名高い山である。身延の奧の院七面山あたりにも啼いてゐることゝおもふ。



底本:「若山牧水全集 第七卷」雄鷄社
   1958(昭和33)年11月30日発行
入力:柴 武志
校正:林 幸雄
2001年6月13日公開
2005年11月14日修正
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