て友は訊いた。
「如何かしたのですか。」
「先日《こなひだ》、妾《わたし》は夢を見ましたがね、郷里《くに》で親類中の者が集つて何かして居るところを見ましたがね、何をして居るのやら薩張り解らなかつたのでしたがね……」
と、一寸句を切つて
「そしたら先刻《さつき》郷里《くに》の弟から葉書を寄越しましたがね、父親《ちち》が死んだのですつて。」
「エ、お父樣が、誰方《どなた》の?」
「妾《わたし》の父親《ちち》ですがね、十日の夕方に死んだ相ですよ……。それも去年|妾《わたし》共は東京《こちら》に來た時一度知らしたままでまだ郷里《くに》の方にはこちらに轉居したことを知らしてやらなかつたものですから、以前の所あてに弟が葉書を寄越したものと見えて附箋附きで先刻《さつき》それが屆きました。」
「貴女《あなた》のお父樣ですか?」
友は自己の耳を疑ふやうに眼《め》を眞丸《まんまる》にして訊き返して居る。
「エヽ。」
と、細君は、まだ何か言ふだらうかと云ふ風に友を見詰めて居る。
「さうですか、それはどうも飛《と》んでもない事でしたね、嘸《さ》ぞ……」
と自分は起き直つて手短かに弔詞《くやみ》を述べた
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