る愛情といふのも略《ほ》ぼ推せらるるのである。それに子に取つては先づ第一に親しかるべき母親は以上のやうな有樣、萬事母親讓りに出來て居る姉娘の虚心《うつかり》したのは虚心《うつかり》したままに拗《ねぢ》けて行き、それとはまた打つて變つた癇癪持の負嫌ひの意地惡な妹娘は今でさへ見てゐて心を寒うするやうな行爲を年齡《とし》と共に漸々《だん/\》積み重ねて行きつつあるのである。で、從つて近所の娘連中からは遠ざけられ家に入れば母親は斯ういふ状態、自づと彼等の足は歩一歩と暗黒な沙漠の中に進み入らざるを得ないのである。
露ほどの愛情を有《も》たぬ女性《をんな》の生涯、その女性を中心とした一家の運命、見る聞くに如何ばかり吾等若い者の胸を凍らしめて居るであらう。
然ればと云つて彼女《かれ》に常識の缺けて居る所でもあるかといふと、それは全然ちがひで、物ごとのよく解りのいい立派な頭を有つて居るのだ。
友と自分とは更にいろ/\と細君の蔭口をきいてゐた。少しも料理法を知らぬといふこと、(これも實際の事で、八百屋に現はれるその時々の珍しい野菜にさへ氣附かぬ風である。自分等の豚肉などと共に三つ葉とか春菊とかを買
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