をあたゝめ始めた。
十月廿六日
起きて見ると、ひどい日和になつてゐる。
「困りましたネ、これでは立てませんネ。」
渦を卷いて狂つてゐる雨風や、ツイ溪向うの山腹に生れつ消えつして走つてゐる霧雲を、僅かにあけた雨戸の隙間に眺めながら、朝まだきから徳利をとり寄せた。止むなく滯在ときめて漸くいゝ氣持に醉ひかけて來ると、急に雨戸の隙が明るくなつた。
「オヤ/\、晴れますよ。」
さう言ふとK―君は飛び出して番傘を買つて來た。私もそれに頼んで大きな油紙を買つた。そして尻から下を丸出しに、尻から上、首までをば僅かに兩手の出る樣にして、くる/\と油紙と紐とで包んでしまつた。これで帽子をまぶかに冠れば洋傘はさゝずとも間に合ふ用意をして、宿を立ち出でた。そして程なく、雨風のまだ全くをさまらぬ路ばたに立つてK―君と別れた。彼はこれから沼田へ、更に自分の村下新田まで歸つてゆくのである。
獨りになつてひた急ぐ途中に吹割の瀧といふのがあつた。長さ四五町幅三町ほど、極めて平滑な川床の岩の上を、初め二三町が間、辛うじて足の甲を潤す深さで一帶に流れて來た水が或る場所に及んで次第に一箇所の岩の窪みに淺い瀬を立て
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