げ終わり]
常陸霞が浦にて。
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苫蔭にひそみつつ見る雨の日の浪逆《なさか》の浦はかき煙らへり
雨けぶる浦をはるけみひとつゆくこれの小舟に寄る浪聞ゆ
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平常為事をしなれてゐる室内の大きなデスクが時々いやになつて、別に小さな卓を作り、それを廊下に持ち出して物を書く癖を私は持つて居る。火鉢の要らなくなつた昨日今日の季候のころ、わけてもこれが好ましい。
廊下に窓があり、窓には近く迫つて四五本の木立が茂つてゐる。なかの楓の花はいつの間にか実になつた。もう二三日もすればこの鳥の翼に似た小さな実にうすい紅ゐがさして来るのであらうが、今日あたりまだ真白のまゝでゐる。その実に葉に枝や幹に、雨がしとしと降つてゐる。昨日から降つてゐるのだが、なか/\止みさうにない。
楓の根がたの青苔のうへをば小さい弁慶蟹の子が二疋で、さつきから久しいこと遊んでゐる。
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ゆきあひてけはひをかしく立ち向ひやがて別れてゆく子蟹かな
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底本:「日本の名随筆43 雨」作品社
1986(昭和61)年5月25日第1刷発行
1991(平成3)年10月20日第10刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:加藤恭子
校正:浦田伴俊
2000年8月18日公開
2005年6月26日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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