下っているのであった。
他殺か、自殺か?
すると、正木署長が叫んだ。
「おお血や、血や」
「ナニ血だって? 縊死《いし》に出血は変だネ」
と村松検事は屍体を見上げた。そのとき彼は愕きの声をあげた。
「うむ、頭だ頭だ。後頭部に穴が明いていて、そこから出血しているようだ」
「なんですって」
人々は検事の指《ゆびさ》す方を見た。なるほど後頭部に傷口が見える。
「オイ誰か踏台を持ってこい」検事が叫んだ。
帆村探偵に抱かれていた糸子は、間もなく気がついた。そのとき彼女は低い声でこんなことを云った。
「――貴郎《あなた》、なんで書斎へ入ってやったン、ええ?」
「ええッ、書斎へ――何時、誰が――」
意外な問に帆村がそれを聞きかえすと、糸子は呀っと声をあげて帆村の顔を見た。そして非常に愕きの色を現わして、帆村の身体をつきのけた。
「――私《うち》、何も云えしまへん」
そういったなり糸子は沈黙してしまった。いくら帆村が尋ねても、彼女は応えようとしなかった。そこへ奥女中のお松が駈けつけてきて、帆村にかわって糸子を劬《いたわ》った。
警官たちに遅れていた帆村は、そこで始めて惨劇の演ぜられた室
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