現わさないと仰有るのですね」
「それは現わすことがあるかも知れない。君、幽霊というやつはネ、今でも――」
帆村は愕いて、もうよく分りましたと云わんばかりに人を喰った検事の方へ両手を拡げて降参降参をした。
「じゃ検事さん。ドクトルを殺したのは誰です」
「きまっているじゃないか。蠅男が『殺すぞ』と説明書を置いていった」
「じゃあ、あの機関銃を射った奴は何者です」
「うん、どうも彼奴《あいつ》の素性《すじょう》がよく解せないんで、憂鬱《ゆううつ》なんだ。彼奴が蠅男であってくれれば、ことは簡単にきまるんだが」
「さすがの検事さんも、悲鳴をあげましたね。あの機関銃の射手と蠅男とは別ものですよ。蠅男が機関銃を持っていれば、パラパラと相手の胸もとを蜂の巣のようにして抛《ほう》って逃げます。なにも痴情の果《はて》ではあるまいし、屍体を素裸にして、ストーブの中に逆さ釣りにして燃やすなんて手数のかかることをするものですか」
「オヤ、君は、あの犯人を痴情の果だというのかい。するとドクトルの情婦かなんかが殺ったと云うんだネ。そうなると、話は俄然《がぜん》おもしろいが、まさか君も、流行のお定宗《さだしゅう》で
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