かろうか。いやそれに違いない。
 では蠅男は、玉屋総一郎を間違いなく襲撃するつもりに違いない。悪戯《いたずら》の脅迫ではなかったのだ。
「蠅男」とは何者であろう?


   疑問の屍体


 その奇怪なる蠅男の署名《サイン》入りの脅迫状が、こうして二通も揃ってみると、これはもはや冗談ごとではなかった。
 鴨下ドクトル邸の広間に集った捜査陣の面々も、さすがに息づまるような緊張を感じないではいられなかった。
 中でも、責任のある住吉警察署の正木署長は佩剣《はいけん》を握る手もガタガタと慄《ふる》え、まるで熱病患者のように興奮に青ざめていた。
「もし、検事さん。本官《わたし》はこれからすぐに玉屋総一郎の邸に行ってみますわ。そやないと、あの玉屋の大将は、ほんまに蠅男に殺されてしまいますがな。手おくれになったら、これは後から言訳がたちまへんさかいな」
 署長は、ドクトル邸の燃える白骨事件で、黒星一点を頂戴したのに、この上みすみすまたたどん[#「たどん」に傍点]を頂戴したのでは、折角これまで順調にいった出世を躓《つまず》かせることになるし、住吉警察署はなにをしとるのやと非難されるだろう辛さが、もう
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