は大川主任の訪問をうけてから、すっかり恐縮しきっていた。そして帆村にありとあらゆる好意を示そうとするのだった。
 帆村はさっきから考えていたところに従って、帳場に質問を発した。まず誰かホテルの者でこうこうした若い婦人を見かけたものはないかと訊いてみた。
 帳場では、私どもは決して見かけなかったと返事をした。それからすぐ雇人たちを集めて、同じことを問いあわせて呉れた。しかし誰一人として、糸子に該当《がいとう》する婦人を見たものはないということだった。
「フーム、どうも可笑《おか》しいことだ」
 帆村は強く首をふった。
 誰にも見られないでこのホテルに忍びこむということができるだろうか。裏口や非常梯子のことを聞いてみたが、そこからも誰にも見とがめられないで入ることは出来ないことが分った。すると糸子は、煙のように入って来たことになる。そんな莫迦莫迦《ばかばか》しいことがあってたまるものではない。
 そこで帆村は窮余《きゅうよ》の策として、宿帳を見せて貰った。目下の逗留客《とうりゅうきゃく》は、全部で十組であった。男が十三人に、女が六人だった。
 次に彼は逗留客がホテルに入った時間を調べていっ
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