れについて玉屋から、どうも警察の護衛が親切でないから、司法大臣に上申するといってきた顛末《てんまつ》を伝えた。
 村松検事は署長に、その脅迫状を持っているなら見せるように云った。
 署長は、お安い御用といいながら、ポケットを探ったが、どうしたものか先刻預って確かにポケットに入れたはずの封筒が、何処へ落としたか見当らないのであった。
「どうしたんやろなア、確かにポケットに入れとったのじゃが――ひょっとすると階下《した》の大広間へ忘れてきたのかしらん。検事さん、ちょっとみてきます」
 署長があたふたと階下《した》へ下りていく後を、村松検事は追いかけるようにして、大広間の方へついていった。焼屍体のあった大広間は、監視の警官が一人ついたまま、気味のわるいほどガランとしていた。
 警官の挙手の礼をうけて、室内に入った署長は、そのとき室内に、異様の風体の人間が、火の消えた暖炉《ストーブ》の傍にすりよって、後向きでなにかしているのを発見して、呀《あ》ッと愕いた。全く異様な風体の人間だった。和服を着て素足の男なんだが、上には警官のオーバーを羽織り、頸のところには手拭を捲きつけているのだった。頭髪は蓬《よもぎ》のようにぼうぼうだ。
「コラッ誰やッ」署長は背後から飛びつきざま、その男の肩をギュッと掴んだ。
「うわッ、アイテテテ……」
 異様な風体の男は、顔をしかめて、三尺も上に飛びあがったように思われた。
「何者や、貴様は――」
 と、獣のように大きな悲鳴をあげた怪人に、却《かえ》って愕かされた署長は、興奮して居丈高《いたけだか》に呶鳴った。
「いや正木署長、その男なら分っているよ」いつの間に入ってきたか、村松検事がおかしそうに署長を制した。「それは私の知合いで帆村《ほむら》という探偵だ」
「ああ帆村さん。この怪《け》ったいな人物が――」
「うむ怪しむのも無理はない。彼は病院から脱走するのが得意な男でネ」
 帆村は肩が痛むので左腕を釣っていた。大きな痛みがやっと鎮まるのを待って、怺《こら》えかねたように口を利いた。
「――まあ怒るのは後にして頂いて、これをごらんなさい、重大な発見だ」
 そういってさし伸べた彼の右手には、同じ色と形とを持った二枚の黄色い封筒があった。
「あッ、これは玉屋氏に出した蠅男の脅迫状や。あんた、どこでそれを――」
「まあ待ってください。こっちが玉屋氏宛のもので、
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