だけで、まるで骨つきの痩せた、鶏の股を炮《あぶ》り焼きにしたようなものだが、それに二つの特徴がついている」
「ほほう、――」
「一つは右足の拇指《おやゆび》がすこし短いのだ。よく見ると、それは破傷風《はしょうふう》かなんかを患って、それで指を半分ほど切断した痕《あと》だと思う」
「なるほど、それはどの位の古さの傷ですか」
「そうだネ、裁判医の鑑定によると、まず二十年は経っているということだ」
「はあ、約二十年前の古傷ですか。なるほど」と帆村は病人であることを忘れたように、ひきしまった語調で呟《つぶや》いた。
「――で、もう一つの傷は?」
「もう一つの傷が、また妙なんだ。そいつは同じ右足の甲の上にある。非常に深い傷で、足の骨に切りこんでいる。もし足の甲の上にたいへんよく切れる鉞《まさかり》を落としたとしたら、あんな傷が出来やしないかと思う。傷跡は癒着《ゆちゃく》しているが、たいへん手当がよかったと見えて、実に見事に癒っている。一旦切れた骨が接合しているところを解剖で発見しなかったら、こうも大変な傷だとは思わなかったろう」
「その第二の傷は、いつ頃できたんでしょう」
「それはずっと近頃できたものらしいんだがハッキリしない。ハッキリしないわけは、手術があまりにうまく行っているからだ。そんなに見事な手術の腕を持っているのは、一体何処の誰だろうというので、問題になっておる」
検事村松と傷つける青年探偵帆村壮六とが、事件の話に華を咲かせているその最中に、慌《あわ》ただしく受付の看護婦がとびこんできた。
「モシ、地方裁判所の村松さんと仰有《おっしゃ》るのは貴方さまですか」
「ああ、そうですよ。何ですか」
「いま住吉警察署からお電話でございます」
検事はそのまま席を立って、室外へ出ていった。
それから五分ほど経って、村松検事は帰ってきた。彼は帆村の顔を見ると、いきなり今の電話の話をした。
「いまネ、鴨下ドクトルの邸に、若い男女が訪ねてきたそうだ。ドクトルの身内のものだといっているが怪しい節《ふし》があるので、保護を加えてあるといっている。ちょっと行って見てくるからネ。いずれ又来るよ」
そういい置いて、扉の向うに消えてゆく検事の後姿を、帆村は羨《うらや》ましそうに見送っていた。
蠅男
時間は、それより一時間ほど前の九時ごろのことだった。
同じ住吉区《すみよし
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