てあげまひょうか」
といって、彼のうしろにまわり、肩のところへ砂をバサバサかけてくれた。
「ありがとう。もういいよ」
と帆村がいった。女は黙って、なおも砂を帆村の頸の方にまで積んでいった。女はさっきの愛想笑いに似ず、急に無口のようになって、帆村の頸のあたりに、妙な具合に両手をからませるのであった。
(変だぞオ)
と思ったその刹那《せつな》、それまで帆村の頸のまわりを戯《たわむ》れのように搦《から》んでは解け、解けてはまた搦《から》みついてきた女のしなやかな指が、板片のような強さでもって、帆村の頸をグッと締めつけた。彼は愕《おどろ》いて砂の中から立ち上ろうとしたが、女は盤石《ばんじゃく》のように上から押しつけていて、帆村の自由にならない。その上、女の指は頸をギュウギュウしめつけてくる。向うの相客に助けを求めようとしたが、声の出るべき咽喉がこの有様で、呻《うな》ることさえ出来なかった。そのとき向いのうしろ向きになっていた男が、急にピタリと浪花節をやめた。
「やれ、気がついてくれたか」
と思って悦《よろこ》んだのは、ほんの一瞬間であった。
相客《あいきゃく》は砂の中に、その長い頸《くび》をグッと曲げて、帆村の方を眺めた。彼はすべてを呑みこんでいるという風にニヤニヤと笑っているのだった。長い顔、そして大きな唇。その顔!
「おお、貴様は蠅男だな」
帆村は口の中で呀《あ》ッと叫んだ。
砂の中から出ているのは、蠅男の頸だったのである。悪逆残忍、たとえるに物なき殺人魔・蠅男の首に外《ほか》ならなかった。
「お竜《りゅう》、しっかり圧《おさ》えていろ」
蠅男は底力のある低い声で呶鳴《どな》った。
お竜! するといま帆村の頸《くび》を圧《おさ》えつけているのは、蠅男の情婦のお竜だったのだ。
よくもここまで帆村を引ずりこんだものである。いや、これは蠅男が一歩先の先まわりをして、ここに陥穽《かんせい》を設けておいたものであろう。帆村の想像していたとおり、天王寺公園付近に蠅男は隠れていて、そこを縄ばりとする仲間の誰彼と、緊密な連絡をとっていたものらしい。
帆村はいまや風前の灯であった。お竜がこの上グッと手に力を入れるか、それとも蠅男が砂の中から飛びついてくれば、もうおしまいだった。
帆村一生の不覚だった。
彼は頸を締めつけられるあまり、だんだん朦朧《もうろう》となっ
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