に捨てて、スックと立ち上った。蠅男の正体も調べたいが、若き二人の安危が更に気に懸る。
 彼は書斎を調べて廻ったが、思うようなものにぶつからなかった。そこで廊下に走りでて、両側に並んでいる室々を片っぱしからドンドンと叩いて廻った。
 すると、果して一つの部屋のうちから、微《かす》かではあったが、人間の呻《うめ》くような声を耳にした。その部屋はかつて蠅男が帆村を狙いうちにした暗い部屋だった。
 扉を蹴破ってみると、果してその小暗い室内に、洋装のカオルと山治とが荒縄でもってグルグル巻きに縛り合わされていた。
 帆村は愕いて、すぐさま二人の戒《いまし》めの縄を解いてやった。
 二人は再生の悦びを交々《こもごも》のべた後で、偽の父と見破った瞬間に、忽ちこんな目に合ってしまったことを説明した。帆村は、それこそ怪物蠅男が化けていたのだ、といえば山治は、
「――その蠅男は、僕たちが階下《した》の応接室で喋っていたことを、マイクロフォン仕掛で、すっかりこっちで聞いていたんだって云っていましたよ」
「そうなんですのよ。あたくしが父の身体の特徴について、貴方に申上げようとしたので、それを喋られては大変と愕いてこの階上に呼びあげたのですわ。あたくしも、もうすっかり覚悟をしてしまいました。父は蠅男のためにストーブの中で焼き殺されたに違いありませんわ」
「なるほど、あの焼屍体の半焼けの右足の拇指が半分ないのは、お父さまの特徴と一致するというわけですね」
 カオルはそれに応える代りに、はふり落ちる泪を手で抑えつつ大きく頷《うなず》いた。無慚《むざん》な最期を遂げた亡き父に対する悲しみが、今や新たに泪《なみだ》を誘ったのに相違なかった。
「お嬢さん。ドクトルはどうして蠅男に殺されるようなわけがあったのでしょうネ」
 と、帆村が率直に質《たず》ねると、カオルは泪に泣きぬれた白い面をあげて、
「さあそれが、あたくしには一向心当りがございませんのです」
「うむ、貴方にもやはり分りませんか」
 帆村は、また一つ希望を失った。
 だが根本によこたわる彼の信念は微動もしなかった。蠅男の兇刃《きょうじん》に斃《たお》れた鴨下ドクトル、それから富豪玉屋総一郎、最近に元検事正塩田律之進――この三人は、何か蠅男から共通の殺害理由をもちあわしていたに違いないということだ。その殺害理由を探し出すことが、この大事件を解決す
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