した犯人は誰か? それを教えて貰いたい」
「何を冗談いうのじゃ。鴨下ドクトルは、こうして君の前に居るじゃないか。血迷うな。ハッハッハッ」
 生きている鴨下ドクトルに、鴨下ドクトル殺しの犯人を尋ねるというのは狂気の沙汰だった。帆村探偵は遂に逆上をしたのであろうか。
「言うなッ」と帆村は大喝してドクトルを睨《にら》みつけた。「なんだ、その貴様の左腕は何処へ置き忘れて来たのだッ」
「呀《あ》ッ、こいつを知られたかッ」
 と、ドクトルはブラブラの左腕の袖を後に隠したが、もう遅かった。
「さあどうだ、蠅男! 化けの皮を剥いで、両手をあげろッ。無い方の手も一緒に挙げるんだ」
 と、ピストルを擬して帆村は無理なことをいう。
「うわッ、はッはッ」
 と、蠅男は附け髯のなかから哄笑した。
「手前こそ、今度こそは本当に念仏《ねんぶつ》を唱《とな》えるがいい。この室から一歩でも出てみろ。そのときは、手前の首は胴についていないぞ」
 蠅男は、大蟹《おおがに》のような右手の鋭い鋏をふりかざして恐れ気もなく帆村に迫ってきた。
 今や竜虎《りゅうこ》の闘いである。悪竜《あくりゅう》が勝つか、それとも侠虎《きょうこ》が勝つか。生憎《あいにく》と場所は敵の密室中である。部屋の入口には鍵が懸っていた。


   落ちた仮面


「此奴《こいつ》がッ――」
 ドドンと帆村は敢然《かんぜん》引き金を引いた。今や危急存亡《ききゅうそんぼう》の秋《とき》だった……
「うわッはッはッ」
 人を喰った笑い声もろともアーラ不思議、蠅男の身体がドーンと床の上に仆れるが早いか、ガチャガチャと金属の摺れあう音がして、蠅男の胴と手足がバラバラになった。
「呀ッ!」
 と帆村の逡《たじろ》ぐ前に、バラバラになった蠅男の五体は、まるでその一つ一つが独立した生き物のように、物凄い勢いでクルクルと床上を匍いまわり、次第次第に帆村の身近く迫ってくるのであった。勇猛な帆村探偵も、この勝手のちがった相手の攻勢に遭って、手の出し様がなかった。クルクル廻る蠅男の首を狙うべきか、脚を抑えるべきか。
 帆村は咄嗟《とっさ》にヒラリと安楽椅子の上にとび上った。そして手にしたピストルを下に向けて、ドドドーンと乱射した。
「ぎゃッ。――」
 と、途端《とたん》に聞ゆる悲鳴、素破《すわ》ピストルの弾丸が命中したかと思った刹那《せつな》、傍らの壁に突然ポ
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