が彼の顔は、血の気を失って、まるで死人のように真青であった。
検事は、ブルブル慄《ふる》う指先で室内を指し、
「殺人事件がおこったんだ。ボーイ君。そこらにいる人を大声で呼びあつめるんだ。それから、鴨下ドクトル。すみませんが、どこかそこらの室から電話をかけて、警察へ知らせてくださらんか」
村松は、やっとそれだけのことを云った。ボーイは、扉ごしにチラリと室内を見やった。絨毯《じゅうたん》の上に、大きな人間の身体が血まみれになって倒れているのが明るい電灯の下によく見えた。彼はドキンとして、腹の中から自然に声がとび出した。
「おう、人殺しだッ。皆さん早く来て下さいッ」
引かれゆく殺人検事?
電話で知らせたので、警察からは係官が宙をとんで駈けつけた。
惨劇の室内に入ってみると、そうも広くないこの室は、なまぐさい血の香で噎《むせ》ぶようであった。
塩田先生は、脳天をうち砕かれ、上半身を朱に染めて死んでいた。これが曾《かつ》て、鬼検事正といわれ京浜地方の住民から畏敬されていた塩田律之進の姿なのであろうか。それはあまりにも悲惨な最期だった。
係官の取調べが始まった。
塩田先生が殺害された当時、この室のうちに誰がいたか。
それは外でもない。村松検事只一人だったことを証明する者が沢山居た。
ボーイも証言した。鴨下ドクトルも、もちろん同意した。階下の事務所にいて、塩田先生のところへ電話をかけたボーイ長もそれを否定しなかった。鴨下ドクトルが手洗所に入り手洗所から出てくるのをみていた、女事務員たちの中にも、それに異議をいう者がなかった。
「どうです、村松さん。これについて何か云いたいことがありますか」
当直の水田検事が、気の毒そうに、この先輩にあたる村松に訊いた。
「……」
村松は物を云うかわりに、首を左右に振って答えた。口を開く気力もないといった風であった。
「では村松さん。貴方はここに死んでいる人を殺した覚えがありますか」
村松は、更に無言のまま首を左右にふった。
「では、この人は、どうしてここに死んでいるのです」
村松はやはり黙々として、かぶりを振った。
「検事はん。血まみれの文鎮についとった指紋が、うまく出よりました。これだす」
そういって、鑑識課員が、白い紙に転写した指紋と、凶器になった文鎮とを差出した。
「それから、ちょっと村松氏の指紋を
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