右にふりながら、
「姿なき女優――はて、どこかで聴いた様な言葉だが……」
 と呟《つぶや》いた。


     4


 桐花カスミは、ミス銀座といわれる美人売り子に、三原玲子の方は不良の情婦で、裏町の小さいカフェに女給をしているというしがない役割で、一人の大学生をめぐって物語が伸びてゆくという中々いいところで、試写映画はぷつんと切れてしまった……。
「如何です。もう一本かけましょうか」
 木戸氏がにこにこして函から出てきた。私は帆村の顔を見た。――彼はじっと考えこんだ眼の焦点を急に合せ乍ら、
「……今の映画の終りの方に、変なところがありましたね。カフェの場、三原玲子さんなどの女給連総出で花見がえりらしい酔っぱらいをがやがや送って出るところで、画面がいきなり飛んで不連続になるところがありましたよ」
 と云い出した。
「そうですか」と木戸氏は怪訝《けげん》な顔をして云った。「はてな、すると先刻のやつと間違って接いでしまったのかな」
 木戸氏は函の中に入って、フィルムの入った丸い缶を持ちだした。そして手馴れた調子でぴらぴらとフィルムを伸ばしては窓の方に透《すか》してみるのであった。
「ああ
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