り出されたね」
「そうじゃないんだ。うちで考えごとをしていたんだ。ちょっと上って呉れないか」
 と、帆村は私の腕をとって引張りこんだ。
 考えごと――徹夜の考えごとというのは何だろう。
「君に訊ねるが、君は『獏鸚』というものを知らんかね」
 と、帆村がいきなり突拍子もない質問をした。
「バクオウ?――バクオウて何だい」
 と、うっかり私の方が逆に質問してしまった。
 彼は苦が笑いをして暫く私の顔を見詰めていたが、やがて乱雑に書籍や書類の散らばっている机の上から、小さい三角形の紙片を摘みあげると、私の前に差出した。
「なんだね、これは?」
 と私はその小さい紙片を受取って、仔細に表と裏とを調べた。裏は白かったが、表の方には、次のような切れぎれの文字が認《したた》められてあった。
[#ここから3字下げ、20字詰め、罫囲み]
……0042……奇蹟的幸運により……獏鸚……
[#ここで字下げ終わり]
 どうやらこれは、手紙かなにかの一端をひきちぎった断片らしかった。なるほど「獏鸚」という二字が見えるが、何のことだか見当がつかない。
「一体これは何所で手に入れたのかネ」
「そんなことを訊《き》かれ
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