は植物でもずっと下等な地衣類がはえているだけで、動物はまずいないのであろうといわれる。つまり火星人なんて棲《す》んでいないらしいというのだ。
 しかし宇宙は広大である。直径十億光年の大宇宙の中には、地球と似た遊星《ゆうせい》も相当たくさんあるにちがいないし、従ってその住民がやはり電波通信を行っているだろうし、そうだとすればその通信をとらえる可能性はあるはずだと考えていた。
 そしてあと二十年もすれば、われわれ人類はいよいよ宇宙旅行に手をつけるだろうが、それにはロケットをとばすよりも先に、電波をとばし、また相手から発射される電波信号をさぐることの方が先にしなくてはならない仕事だと思っていた。
 そういう意味において、隆夫は、こんど組立てた受信機に大きな望みと期待とを抱いていた。


   初めての実験


 すっかり組立を終った。
 隆夫は胸をおどらせて、金網の箱の外のパネルの前に、腰掛を寄せて、いよいよその受信機を働かせてみることになった。
 電源を入れた。
 しばらくすると、真空管のヒラメントがうす赤く光りだした。
 そこで五つの目盛盤をあやつると、天井から下向きにとりつけてある高声器から、がらがらッと雑音《ざつおん》が出て来た。
「おやッ。雑音は出て来ないはずだが、なぜ出て来るんだろう」
 雑音を完全に消すのが特長であるこの受信機が、スイッチを入れるが早いか、がらがらッとにぎやかに雑音を出したものだから、隆夫はすっかりくさってしまった。
「どこが悪いんだろうか」
 電気を切ると、隆夫は金網戸を開いて、器械のそばへ行った。
 せっかくつないだ接続をはずして、装置の各パートを、たんねんに診察しはじめた。それが終ったのが、朝の三時だった。結果は、どのパートも故障はなかった。
 それからまた電源や出力側の接続をやり直した。それが完了すると、金網戸のところを外へ出、ぴったりと戸をしめた。そしてパネルの前に再び腰を下ろし、もう一度頭の中で手落ちはないかと確《たしか》め、それから金網越しに、奥の台の上に列立する真空管や、鋭敏《えいびん》な同調回路の部品や、念入りに遮蔽《しゃへい》してあるキャプタイヤコードの匐《は》いまわり方へいちいち目をそそいだ。
「こんどこそ欠点なしだ」
 確信をもって彼は、電源のスイッチを入れた。そしてしばらく真空管の温《あたた》まるのを待った。
 がらがらッ。がらがらッ。
 雑音が、またも天井裏《てんじょううら》の高声器から降ってきた。
 しぶい顔をして隆夫は、又してもはねまわるぬ雑音に聞き入った。
「だめだッ」
 スイッチを切る。
「いったいどこがいけないのか、見当がつかないや。どこも悪くないんだがなあ」
 がっかりして、彼はとなりの図書室の長椅子《ながいす》の上にのびて、ねてしまった。
 その翌日のことであった。
 学校のかえりに、二宮《にのみや》と三木《みき》がついて来た。
 隆夫は二人を小屋の中の金網の前につれこんだ。そして前夜からのことをくわしく説明した。
「ちょっとスイッチを入れてみないか」
 二宮がいったので、「よおし」と隆夫は電源スイッチを入れた。
 すると間もなく、例のがらがらッ、が始まった。だが昨夜ほど大きくはなかった。とはいうものの、他のよわい通信を聞き分けることは、とてもできないくらい雑音の強さは桁《けた》はずれに大きかった。
 二宮も三木も、かわるがわるパネルの前に立って、隆夫にききながら目盛盤をまわしていろいろ調整をやってみたが、さっぱり通信の電波は受からなかった。
 ただ二宮は、こんなことをいった。
「この雑音ね、どの波長のところでも聞えることは聞えるけれど、この目盛盤で5から70ぐらいの間が強く聞えて、その両側ではすこし低くなるね」
「それはそうだね。その5と70[#「70」は縦中横]の外では、急に回路のインピーダンスがふえるから、それで雑音も弱くなるのじゃないかなあ」
 隆夫が意見をのべた。
「そうだろうか。しかしぼくはね、この雑音はふつうの雑音ではないような気がする。やっぱり信号電波が出ているんじゃないかなあ。しかしその電波は、鋭敏に一つの波長だけで出していないんだ。そうとう広い波長帯で、信号を放送しているんじゃないかなあ」
 二宮は、かわった見方をしている。
「でもこれは雑音のようだぜ」
「ぼくもそう思う」
 三木も隆夫に賛成した。
 両説に分れたままで、その時は分れた。なぜならば、三人の少年たちの知識と実力とではそれを解決することができなかったからだ。
 友だち二人が帰ると、隆夫は小屋の中にひとりとなったが、気が落ちつかなかった。もう一度雑音を聞いてみた。雑音にちがいないと思いながらも、妙に二宮のいった広い波長帯をもった放送かもしれないという説が気になってならなかった。そこ
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