し」に傍点]の手には、お喋《しゃべ》り探偵の脳天《のうてん》を叩き破ったハンマーが、血にまみれて、握られていた。それは、彼氏がお喋りに夢中になっている間に、卓子《テーブル》の蔭から、コッソリ取出したものだった。だが、此《こ》の男を殺してしまったお蔭で、隠忍《いんにん》十年、殺人癖《さつじんへき》から遠去かっていた此《こ》のわし[#「わし」に傍点]の身体には、久しく眠っていた悪血《あくけつ》が、一時に飢《う》えに目覚めて、湧《わ》きあがってきたようだ。わし[#「わし」に傍点]の名か? 「片眼の岩《いわ》」と云やァ、ちっとは人に知られた吾儘者《わがままもの》だなア。



底本:「海野十三全集 第2巻 俘囚」三一書房
   1991(平成3)年2月28日第1版第1刷発行
初出:「新青年」
   1932(昭和7)年8月号
※底本の「c.c.」は「※[#全角CC、1−13−53]」で入力しました。
※「わし達の周《まわ》りには、」の「わし」にのみ、傍点がないのは底本通りです。
入力:tatsuki
校正:花田泰治郎
2005年5月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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