った。その実、その旦那先生が、先に立って、一々スウィッチを外《はず》して置いたのだ。怨霊の仕業ということになると、一番|戦慄《せんりつ》を感じたのは、若い男と、例の女だ。二人とも大いに思い当るところがある。というのは、自分達が手を下して闇から闇へ送ってしまった胎児《たいじ》の怨霊のせいに違いないと思いこんでしまう。さァ、こうなると、旦那どのの計画は、いよいよ思う壺《つぼ》に嵌《はま》っていったというわけだ。探険の結果、これは怨霊の外《ほか》に、理由がつかないと決定した夜のこと、旦那どのは、夜業《やぎょう》をしている情婦《おんな》のところへ行って、遂に引導《いんどう》の言葉を渡してきた。それは、のっぴきならぬ証拠を手に入れたので、明日になったら、警察へ告発するぞと脅《おど》したのだ。情婦は、思い余《あま》って、自殺の意を決し、自分の働いている工場の熔融炉《キューポラ》に飛びこんで、ドロドロに熔《と》けた鉛《なまり》の湯の中に跡方《あとかた》もなく死んでしまった。こんどは、若い男の番だった。旦那どのは、探険隊の中に、その男を入れることを忘れなかった。若い男を、ジリジリと苦しめてゆくのが、たまらなく快感を唆《そそ》ったのだった。若い男は、クレーンが独《ひと》りで動き出す大恐怖《だいきょうふ》の前に、永い間、ひき据《す》えられていた。更《さら》に、戦慄《せんりつ》を禁《きん》じ得《え》ないクレーンの上へ、引張り上げられたり、又降ろされたりした。そこへ、突如として、女の自殺を聞いた。それには旦那どのも遽《あわ》てた位だ。若い男は、女の飛込んだ熔融炉目懸けて、駈け出して行った。彼も女の跡を追って、この炉の中で死のうと決心した。そう思うと、彼は脱兎《だっと》のように熔融炉の鉄梯子を、かけ上ったのだ。友人の一人が助けようとして、後から上ろうとすると、そこへ旦那どのが、飛び出して、彼をつきとばした。そして、旦那どのは、恨《うら》み重なる男のあとにつづいて梯子を上って行ったのだ。これを見ていた人々は喝采《かっさい》した。それもそうだろう。いやたった一人を除いてはネ。そいつは、工場の隅《すみ》から、コッソリこの場の光景を眺めていた俺によく似た男さ、はッはッはッ。だが、その男にも、旦那どのの復讐が、どのように行われるのか、見当がつかなかった。ひょっとすると、旦那どのは、わざと梯子昇りの速力
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