苦しそうな呻《うめ》き声を洩《もら》しつづけて、ものの三十分も考えていたが、軈《やが》て[#「軈《やが》て」は底本では「軈《やがて》て」]急に輝かしい面持《おももち》になって立ちあがると、宿直の警官を煩《わずら》わして、雁金検事や河口捜査課長の臨席《りんせき》を乞うた上で、園部をひっぱり出した。園部は、割合《わりあい》に元気に、美しい顔をニコつかせて帆村の前にあらわれた。それは如何にも自信あり気《げ》に見えて、帆村探偵の敵愾心《てきがいしん》を燃えあがらせた。
 帆村は彼を前にして、松山虎夫殺害事件の詳細を細々《こまごま》と語り出した。
 園部は、彼の名が出ても、また彼が殺人魔として活躍している状況を詳しくのべられても、まったく顔色一つ変えなかった。
 帆村探偵はソロソロ自《みずか》らの仮定が不安になってきたが、今に見ろと元気を鼓舞《こぶ》して、最後の切り札をなげだした。
「ところが、巧妙なる犯人が、唯《ただ》一つ気がつかなかったことがある。それはこれです」
 と彼はピンセットの尖端に針のとれた鋲《びょう》の頭をつまみあげて云った。
「この鋲の頭には二つの指紋がついていたのです、よろし
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