いるところの窓をあけて涼んでいました。あそこは、電車の速力が加わるととても強い風が吹きこんできて、あたし、やっと気分が直ってきましたのよ」
 帆村探偵はハタと膝をうった。そのとき、強い風のため、みどりの袂《たもと》から脱脂綿が吹き飛ばされると、コロコロと転《ころが》って星尾の前に行ったのであろう。星尾は第一の綿を豊乃に盗まれたことは知らぬから、それは自分が落したものと勘違いをしてあわてて拾いあげたものであろう。すると、問題はいよいよ狭くなった。川丘みどりが麻雀倶楽部《マージャンクラブ》で拾った毒物《どくぶつ》のついた綿は、誰が落したのであるか。
 園部が星尾に対して殺意を生《しょう》じたわけが、始めてうまく説明がつくようになった。その綿は無論、園部が犯行に使ったもので、つい誤って下袴《したばかま》の間から落して、川丘みどりに拾われたものであろう。しかし、それとても彼の自白を待たぬば格別立派な証拠物はないのだ。園部のおどろくべき犯罪天才は、奇抜な方法で友の一人を殺し、他の二人の友人に濃厚な嫌疑をかけることに成功している。容易なことでは園部に自白を強《し》いることはできない。
 帆村探偵は
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