どうも夢の話だというのに、あまり詳しく話をしすぎたようで、さぞ退屈だったろうと思う。要は、乃公《おれ》のみた夢というのが、いかにはっきりとしたものであり、そして不思議な現象を持っているかということを理解して貰いたかったのであった。
乃公の夢は、以上の話だけで仕舞いではない。これからいよいよ、夢のミステリーについてお話したいと思うんだ。これから喋るところのものは、ぜひ聞いて貰いたいと思うのだよ。
さてそれから幾日経ってのことか忘れたがね、乃公はまたもう一つの夢を見たのだ。
――長い廊下をふらふらと歩いている……というところで気がついたのだ。
――相変らず長い廊下だ。天井も壁も黄色でね、……
「ああ、いつかこの廊下へ来たことがある!」乃公はすぐ気がついた。それに気がつくと、いけないことに、途端にもう一つのことに気がついたのだった。
「……ああ、乃公は夢を見ているんだ、いま夢を見ているんだな」
と――。
――乃公は努めて、なるべくこの前のときと同じ歩きぶりで、その廊下を歩いていった。忠実に同じような歩きぶりを示さないと、折角の夢が破れるといけないと思ったから……。
やっぱりドーアを見ていった。左側の五つ目のところに、金色のハンドルがついているのを発見した。
「これだな」
乃公はにやりと笑った。
――その金色のハンドルを廻して、室内へ入りこんだ。もちろん部屋の中も、前回等に見たと全く同じことさ。室の中央に赤い絨毯《じゅうたん》が敷いてあるし、その上には瀟洒《しょうしゃ》な水色の卓子《テーブル》と椅子とのセットが載って居り、そのまた卓子の上には、緑色の花活が一つ、そして挿《さ》してある花まで同じ淡紅色のカーネーションだった。
「ふ、ふ、ふ。ふっ。」
乃公はおかしくなって笑い出したくなるのを、じっと怺《こら》えながら室の中央に進んだ。そこで奥の方を見ると、果して例の大鏡があったのではないか。乃公はすっかり安心して、たいへんに楽な気持になった。
(役者などいう職業も、毎日同じ道具立で、同じことを演《や》るのだから、乃公がいま感じていると同じことに、初日以後は、やるたびに楽になってくるんだろう)
そんなことを思ったりした。
――乃公は例によって、いつの間にか大鏡の前に立っていた。そこに映る自分の姿をみると、例のとおり怒髪《どはつ》天《てん》をつき、髭
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