ある。自動車はうなるように疾走する。幌を手早く下ろすと彼は気狂いのように車内を見まわしながら十分間に構想をまとめあげその可能性《ポシビリテー》を信じ得たのであった。
結局彼は「十六メートルの超短波電波は地球の外を包むヘビサイド氏電導層をもっともよく透過《ぺネトレイト》する」ということと、「振動波の波形は生物の感情を表わす」という二つの原理を樹てて廻折式変調受信機を組立てあげたのであった。最初は思ったとおりいかなかったのでいろいろと部分部分を幾度も作りかえてついに最初の機械の百五十倍に達する感度を備えた装置を作り上げ、これで数万光年に相当する遠距離にある遊星からの無線電話もたやすくとらえたうえで、これをエスペラント語に変調して聴かれるように考案したのであった。
祐吉の最新の受信機が例の屋根裏の部屋に装置せられたとき、彼を襲ってくる緊張は、この地球に住んでいる誰よりも先に、地球以外の棲息せる生物の言葉を聞くということであった。そこにはどんなに珍らしい世界がひらけ、またどんなに不思議な思想が表現されていることだろうか。彼は暗中に宝庫の内をさぐってみるような一種奇妙な興奮にとらわれた。それはもう確実に現実なる存在の前に一枚の薄い紙の幕をへだてて相対しているような気持であった。それほど祐吉は彼の受信機の能力については強い自信を持っていた。このうえは一歩進んで確実なる存在の奇怪さにふれることばかりが取り残されてあるのだと彼は思った。奇怪な実在をつかんで発狂することのないように、彼はあらかじめあらゆる想像をたくましうして今ふれんとする世界からの刺戟にそなえたのであった。
ところがせっかくの覚悟も何の役にもたたないほど事実彼はひどく興奮したというのは、幸か不幸か、彼の聴いた地球以外からはじめて到達した言葉の内容は、冒頭にのべたようにあまりにとっぴすぎる事柄であったからである。この奇怪な警告の発信者の棲んでいる一遊星は、いまやその寿命が十分間にきりつめられているのだという。十分間たてば、その遊星はこなごなに破壊されてしまおうというのだ。彼は驚いた。しかし次の瞬間には馬鹿馬鹿しくなってあやうく吹き出そうとしたが、思いなおして笑いをのみこむとともに、不思議な遊星からの言葉に耳を傾けたのだった。
その声は語りつづける。
「……いまから十分間後に私のすんでいる球形の世界が消滅してしま
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