ば、今までの十分の一の時間で配達が出来ます。」
逓相「法螺《ほら》を吹くなよ。」
小僧「本当ですよ、法螺じゃありません。つまりハガキにこの鉄の切手を貼りますネ。それを配達するときは、〒やサンがサイドカー付きのオートバイで配ってまわる。しかもその車には機関銃式郵便物|射出器《しゃしゅつき》というのがついているのです。引金をグッと引けば、往来に居ながら、遥か向うの戸口まで、郵便物が射出《いだ》されて飛んでゆくのです。」
逓相「機関銃式とは考えたナ。しかし郵便物が戸口に当って、バラバラ下へ落ちるのではサービス問題をひきおこすから困る。雨の日など、折角《せっかく》ターキーが送ったブロマイドが泥だらけじゃ、申訳ない。若い女の子に恨《うら》まれては、ワシャ辛《つら》い。」
小僧「なに大丈夫ですよ。戸口には磁石式郵便受を附けるのです。大きな磁石がブラ下っているのです。配達車から射出されたハガキは、鉄の切手が貼ってあるから、戸口へ飛んでゆくとピシリピシリと、この磁石に吸いつけられて、下には落ちんです、この方式によれば、上海《シャンハイ》の市街戦のように超スピードで……。」
逓相「オイ誰か。この方のおでこへ『通信事務』のハンコをペタリと捺《お》して、お住居《すまい》へ送り返せ!」
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多忙病の人に捧げる
千手観音《せんてかんのん》装置
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秘書「そりゃ私も忙しくて閉口してますよ。だが、失礼ながら君の名はノトーリアスですよ、ロクなものを持ってこんという専《もっぱ》らの評判ですが、知っていますか。」
小僧「弁解は忙しいのでしません。まず品物を見られよデス。」
秘書「こりゃ何だ、義手《ぎしゅ》じゃないか。君、間違えちゃいけませんよ。私には正しく二本の手がありますよ。」
小僧「三本の手があっても、忙しくて足らん……とよく申しますネ。つまりこの義手は二本の手があっても、なおかつ忙しい人に取付けるのです。試みに一本つけてごらんなさい。」
秘書「こりゃ駭《おどろ》いた。」
小僧「それで左の手で、電話の受話器を持ち、右の手に握った鉛筆で、向うの云う用件を紙の上に書き……それから補手《ほしゅ》でもって、薄くなった頭の頂上をゴシゴシと掻《か》いてごらんなさい。」
秘書「こりゃ奇妙だ。……四五本、置いていってくれ給え。」
[#こ
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