。肩のところを銃弾でうたれ、ほんのちょっとの間、気をうしなっていたのだ。
「大丈夫だ、おれは」と、彼は肩をおさえて立ち上った。
「ピストルをうった奴をさがしだせ。その窓からうったのだ」
といって、彼は、あたりをふしぎそうに見まわしていたが、
「おや、船長、いませんよ」
「いないとは、誰が!」
「訊問《じんもん》中の曾呂利が」
「おお、曾呂利君が、銃声がきこえたとたんに、あっと叫んでたおれたのを見たよ。どこか、そのへんに、たおれていないか」
「さあ」
一等運転士は、船員たちにも命令して、そのへんをさがさせた。
しかるに、曾呂利本馬の姿は、どこにも発見されなかったのである。
「へんだなあ。どこへいってしまったんだろう」
「うん、たしかに、弾があたって、たおれたのを見たのじゃが」
たおれた曾呂利本馬、いや帆村探偵の姿は、どこかに、かき消すように失《う》せてしまったのであった。
そのとき、外が、そうぞうしくなった。しきりに船員がののしっている。
「おい、一等運転士。あれは、どうしたのか」と、船長はあごで外をさした。
一等運転士は、肩口をおさえたまま、外にとびだした。
するとそこには、船員と水夫とが、一人の若い女をおさえつけていた。
「ああ、一等運転士。この女です。ピストルをうったのは」
「なにっ」
「窓から、中をのぞいていたのです。私が、懐中電灯でてらしつけると、にげだしました。やっと、捕《とら》えたのですが、附近に、このピストルが落ちていました」
「ふーん、それはほんとうか。見れば、まだ年の若い娘のようだが、おや、君はミマツ曲馬団の」と、一等運転士はあきれ顔であった。
房枝だ!
狙撃犯人《そげきはんにん》として、そこに捕えられていたのは、房枝だったのである。
そんなことがあって、いいであろうか。
房枝は、まっ青になって、肩をふるわせている。
「ちがいます。あたくしじゃありません。ピストルをうつなんて、そんなことのできるあたしではありません」
「そうでもなかろう。曲馬団の娘なら、ピストルなんか、いつもぽんぽんとうっているではないか」
「いいえ、ちがいます。ピストルのことは、なにも知らないのです。ただ」
「ただ?」
「ただ、曾呂利さんが、船長室へ引っぱりこまれたので、心配になって、ここへ上ってきたのです」
「それから、ピストルを出して、あたしの肩をうった
前へ
次へ
全109ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング