団長さんが埋《うず》まっていたのよ。火夫《かふ》が、石炭をとりに来て、石炭の山にのぼると、真暗な奥から、うめきごえがきこえたんですって、びっくりして、仲間をよびあつめ、もう一度いって、奥をしらべてみると、誰だかわからない人間が、石炭の間から顔を出して歌をうたっていたんですって」
「歌をうたっていた?」
「そうなのよ、へんでしょう。顔がすっかり焼けただれているのに、歌をうたっているのよ。診察に行かれた先生もおどろいていらしたわ。普通の人間なら、もう死んでいるところですって」
「ひどいことをやったものですね。一体、誰が、そんなことをやったのでしょうね」
「さあ、あたし、そんなことは知らないわ。誰かにうらまれたのじゃないかしら、曲馬団の団長なんて、団員を、とてもいじめるのでしょう。ライオンや虎を打つ鞭《むち》でもってぴゅうぴゅうとたたくのでしょう」
「さあ、どうですかなあ」
帆村探偵は、松ヶ谷団長が、見かけによらない人情にあつい人であることを知っていた。だから、団長は団員からうらまれるようなことは、なかったであろうと思った。問題は、BB火薬にあるのではなかろうか。それから、もう一つ、彼の心に思い出されるのは、美人ニーナ嬢の怪行動だ。ニーナ嬢にぶつかったのは、石炭庫へ下る途中の通路であった。
BB火薬とニーナ嬢!
BB火薬というものは、昨年始めてメキシコのある化学研究所でつくられた、おそるべき強力なる爆薬であった。そのつくり方はもちろん、こういう火薬があるということまで極秘になっていたはずのものだった。それが、どうしたわけか、ある一部へ秘密が洩《も》れ、別なところで、製造が始められたと、帆村は聞いていた。その問題のBB火薬が、雷洋丸の上で発見されたのである。
帆村の眼底には、消せども消せども、なぜかBB火薬と並んでニーナ嬢の顔が浮かび上がってくるのであった。
虚報《きょほう》
「船長。今も申しましたとおり、防空無電局では、あの時刻に、そんな怪飛行機追跡中だなんて警報を出したおぼえはないといっているのです。嘘《うそ》ではなさそうです。するといよいよこれは、どうも、ただごとではありませんよ」
と、一等運転士がいった。船長室で、二人は向きあって額をあつめて、協議中であった。
船長は、海図《かいず》から頭をあげ、
「まったくおかしなこともあるものだな。あの警報
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