は、帆付から何をきかれるのかと、ちょっとはずかしくなった。
「ちょっと伺《うかが》いますが」
 と、帆村は、意外にも、かたい顔を房枝の方に向け、
「あなたは、ミマツ曲馬団の誰かを殺害《さつがい》しようという計画をもっていたのではないですか」
「えっ、なんとおっしゃいます?」
 帆村の問は、房枝をおどろかせたばかりではない。検事はじめ警官たちも、その問にはおどろいてしまった。それは房枝を爆破事件の犯人として疑っているようにも聞える質問だったから。
「じゃあ、もう一度いいます。あなたは、ミマツ曲馬団の誰かを殺害する考えがあったのではないですか」
「まあ、帆村さん、あまりですわ。と、とんでもない」
 房枝は、肩をふるわせて叫んだ。
 帆村は、なぜとつぜん、こんなことをいいだしたのであろうか。ならんでいる警官たちの目が、一せいに帆村の顔にうつる。
「あなたは、そういう考えのもとに、爆発物を、曲馬団のどこかに仕掛けておき、そしてあなたは、自分の体を安全なところへ移すため、丸ノ内へ出掛けていったのではないですか。一人でいくのは工合がわるいから、黒川新団長をさそっていった」
「まあ、待ってください。帆村さん。あたくしが、そんな人間に見えまして、ざんねんですわ」
 房枝は、すすり泣きをはじめた。しかし帆村は、一向動じないかたい表情で、
「だから、バラオバラコの脅迫状も、実は、あなたが自分で作ったものであると、いえないこともない。あなたが安全な場所へ出かける口実を作るため、自分で脅迫状を出したのではないのですか」
「あ、あんまりです。あんまりです」
 と、房枝は、とうとう泣きくずれてしまった。
 それを見かねたものか、検事は、
「おい帆村君。その点は、われわれももちろん考えてみたが、この娘は、それほどの悪人ではなさそうだ。われわれもそのことについてはうたがっていないのだから、それでいいではないか」
「はい、それではどうぞ」
 帆村は、かるくおじきをして、後へ下った。
 房枝は、くやしくて仕方がなかった。帆村探偵は、りっぱな青年だと思っていたのに、なんというひどいことをいう人であろう。あろうことかあるまいことか、自分を殺人犯だとうたがうなんて、そんな仕打があるであろうかと、日頃の好意が、すっかり消しとんでしまった。
 帆村は、ただ沈痛《ちんつう》な顔をしている。彼の胸の中には、他人にい
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