。
高一は元気をだして、うら山にのぼってみました。そこへあがると、きっと村かなんかが、みえるにちがいないと思ったからです。
ところが、うら山にのぼってみておどろきました。村が見えるどころか、ここはいっけんの家もない小さな無人島(人のいない島)だったのです。
「無人島へながれついたとはよわった」
と、高一はひとりごとをいいました。
そしてなおも、あたりの海面を、しきりにみまわしていましたが、
「あっ、ボートみたいなものが二そう、こっちへこいでくるぞ」
たしかにボートです。大ぜいの人が、ぎっしりのっているようです。
高一は、おういと手をふりかけましたが、いや、まてまて、もし、わるいやつらの船だったらこまると思ってみあわせました。
やがて、ボートは波うちぎわにつきました。どやどやと船からおりてくる人をうら山のかげから見ていた高一の目は、きゅうにかがやきました。
「やあ、ミドリがいる!」
ミドリばかりではありません。
そのそばには、あのにくいスパイ団長もいました。
どうやら、れいの貨物船は、日本軍艦の砲弾にあたってしずんだようすです。だからわる者たちは、ボートにのってにげてきたのでしょう。
「ああ、かわいそうな妹……」
ミドリは、兄の高一が山の上から見ているともしらず、しょんぼりとして、わる者たちに手をひかれていました。村の見世物小屋からさらわれたままのすがたです。団長は、このかわいそうなミドリを、どうしようというのでしょうか。高一はすぐにもとんでいきたいきもちでしたが、そんなことをすれば、またいっしょにつかまると思って、がまんしました。
高一はすき腹をかかえて、夜をむかえました。わる者たちの方は、海べりにテントをはり、さかんに火をもやして、なにかうまそうなたべ物をにているようです。
高一は、うら山からぬけだすと、そっと、テントの方へおりてゆきました。さいわい、たれにも見とがめられずに、テントに近づくことができました。
「団長、こんな足手まといの娘なんか、ひと思いにころしてしまった方がいいじゃないか」
たれかが、おそろしいことをいっています。
「ばかをいえ。お前にはまだわからないのか。この娘をつれていって父親をせめりゃ、こんどこそは、日本軍の一番だいじにしている『地底戦車』が、どんなもので、どこにかくしてあるかをいわせることができるじゃないか」
わる者どもの話によって高一は、お父さまが、日本軍にとって、たいへんだいじな「地底戦車」のしごとをしていることをしりました。スパイ団長は、これからお父さまをひどい目にあわせ、日本軍に大きなそんをさせようとしているのです。
ミドリもかわいそうだが、お国のひみつをしられることは、なおさらこまったことです。
「どうしてこれを、日本軍や、お父さまにしらせたらいいだろう」
高一は、なんとかしていいちえをひねりだしたいものと考えながら、ふと、波うちぎわを見ると、一つの大きなたるがながれついています。そばによってみれば、ふしぎや中でことこと音がしています。なにが入っているのでしょう。
いたいた、電気鳩
無人島にながれついた高一少年のことは、後から、おなじ島へあがってきたスパイ団長や、その手下のわる者どもに、まだしれていないようでありました。しかし、そのうちにしれてしまうことでしょう。そのときはたいへんです。きっとつかまってひどい目にあうにきまっています。
高一が、波うちぎわで、ひとつの大きなたるを見つけたことは、まえにいいましたが、近づいて、たるのふたをすこしあけてのぞいてみると、おどろくではありませんか、なかには、見おぼえのある電気鳩がはいっていたのです。
「あっ、電気鳩だ。なぜこんなところにはいっているのだろう」
目のぴかぴかひかる電気鳩です。人がさわれば、電気がつたわって死ぬ電気鳩です。そして、スパイ団長が船のなかで行方をさがしていたその電気鳩です。
きっと、なにかのひょうしで、このたるのなかへまよいこんだとき、うんわるく、ふたがぱたんとしまって、でられなくなったのでしょう。
電気鳩はどうかしたらしく、足でたつこともできず、ぱたぱたとつばさをふるわせるばかりで、元気がありません。高一は安心して、電気鳩を、たるの中から棒きれでそっとだしてみました。
「へんだなあ、あんなにあばれた鳩だったのに」
高一は、首をかしげました。
高一は、思いがけなく電気鳩を、とりこにしたので、たいへんうれしく思いました。しかし、このままにしておいては、いつスパイ団にとりもどされるかもしれないと思ったので、高一は、鳩をもとどおりたるのなかへいれたのち、海岸の砂はまに、大きな穴をほり、そのなかにうめてしまいました。
「こうしておけば、スパイ団にみつかるしんぱいはないだろう
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