しました。
「どこへつれられてゆくんだろう。ミドリは、どうしているんだろう」
と、高一は、たるのなかにゆられながら、それを考えていました。
一|粁《キロ》も車が走ったかとおもうころ、車のうえがさわがしくなりました。
「おや、あの犬は、この車をおっかけてくるんじゃないか」
「うん、小僧がいるのをかぎつけたんだ」
「めんどうだ。ピストルでうってしまえ」
「まてっ、ピストルの音をきかれたらどうするのだ。石ころをなげつけてやれ」
えいえいと、石ころをなげるこえがします。
わわわわ、わんわん、とはげしい犬のなきごえが、車をおってきます。
「あっ、あのこえはマルじゃないか」
忠犬マルは、一生けんめいに、高一をさらってゆくトラックをおいかけてくるのでありました。
どうして、それを知ったのでしょう。そのわけは、鳩のハグロが、マルを案内して、ここまでおいかけてきたのです。
わわわわ、わんわん。
「石ころじゃだめだ。電気鳩をだそう」
「よし、電気鳩だ」
スパイ団長は、ついにおそろしい電気鳩をぱっとはなしました。
高一は、それをきいておどろきました。
きゃ、きゃんきゃんきゃん。
まもなくマルのかなしいさけびごえがきこえます。あわれ忠犬マルも、電気鳩にやられたようすです。
高一はたるの中で、歯をくいしばってざんねんがりました。しかし、電気鳩にかかっては、マルはどうすることもできますまい。
「これでいい。ああ、ほねをおらせおった」
と、これはわる者のためいきです。
トラックは、四、五時間も走りつづけたのち、港につきました。
たるはそこで船のそこへつみかえられました。それは、外国の貨物船のなかでした。
その夜、高一ははじめて、すこし手のいましめのなわをゆるめられ、そして、ごはんがわりに、五つ六つのりんごがたるのなかになげこまれました。なんというひどいことでしょう。
わる者は、また、たるのふたをしっかりしめて、でていってしまいました。
ごとごとときかいのなる音がして、汽船は港をでてゆくようすです。
「どこへゆくのだろう。そして、ぼくやミドリをさらっていってどうする気なんだろう」
高一は、なんとかしてミドリにめぐりあいたいと、それを思いつづけました。
すると、にわかにはげしいくつ音がして、船ぞこへ大勢の人がかけおりてくるようすです。
「おい、早くさがせさがせ
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