へ近づけました。
 すると鳩は、鳩つかいの耳のなかを、くちばしでもって、ちょっちょっとつきました。
「ははあ、そうですか」
 と、鳩つかいは、さもわかったような顔をして、見物人の方に向い、
「鳩さんが申しますには、このお嬢さんのおとしは十歳だそうです。お嬢さんあたりましたか」
 ミドリは、ほんとうに自分のとしをあてられたので、おどろいてしまいました。見物人は、手をぱちぱちたたいて鳩をほめました。
「さあ、そのつぎはお嬢さんのお名前ですが、鳩さん、これはなかなかむずかしいが、あてられますか」
 鳩つかいは、また耳を鳩にちかづけました。
 すると鳩は、また鳩つかいの耳のなかを、くちばしでもって、ちょっちょっとつきました。
「ああそうですか。そこにぶらさがっている万国旗の右から三番目のいろ――というと……」
 と、鳩つかいは、ぶたいにはりまわしてある旗をみまわしました。右から三番目は、ブラジルの旗でした。
「ああ、ブラジルの旗ですね。この旗のいろは青ですね。すると青子さんかしら」
 すると、見物人はこえをそろえて笑いだしました。青子なんてめずらしい名だからです。
「青子はおかしい。もっと、はっきりおしえて下さい。なに、青ではない緑だというのですか。なるほど、ミドリさん。ミドリさんとは、じつにかわいいお名前ですね」
「あたったわ」
 なんというかしこい鳩なのでしょうと、ミドリは、かんしんしてしまいました。見物人は、また、手をたたいて鳩をほめました。
 見物席では兄の高一だけが、おこったような顔をして、鳩つかいをにらみつけています。
「さあさあ、そこでついでにもうひとつ、この鳩をつかってすばらしい魔術をごらんに入れましょう」
 といって印度人は、おくの方に合図をいたしました。するとおくから、こどものからだが入るくらいの大きさの、美しい箱をかついできました。その箱は二つでした。それをぶたいにならべました。さあ、これからどんなことがはじまるのでしょうか。
 鳩つかいは、まず、ひとつの箱のなかに、金色のすじの入った鳩を、かごごと入れました。
 それから、こんどはミドリの手をとって、
「さあお嬢さんは、こっちの箱へ入ってくださいね。なんのこわいことがありましょう」
 ミドリが箱のなかに入ると、鳩つかいは急ににこにこして、
「まず、箱のふたをしめます」
 と、両方の箱のふたをかたんとし
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