弾にしろ、不発弾があるなんて、みっともないですね」
「ばかをいえ。不発弾でなかったら、お前の生命《いのち》は、とっくの昔になくなっているわけじゃないか。不発弾であったのが、どのくらい倖《さいわい》だか、わかりゃしない」
「そういえば、そうですな。とにかく、この上に、まだ転がっていますから、なんならちょっとごらんなすって。私は、すぐ連絡所へ一走りいってまいります」
 そういって、モグラ軍曹は、そのまま匐《は》うようにして、塹壕の中を向うへいってしまった。
 その後で、カモシカ中尉は、よろよろと立ち上った。そして痛む脚を引き摺《ずり》ながら、塹壕の斜面についた階段を、くるしそうに登っていった。
 トーチカの真下のところには、味方の兵士の屍《しかばね》が、累々《るいるい》と転がっていた。よくまあ、こうも一遍にやられたものだと、感心させられた。そのあたりは、墓場そのものであった。生きている兵士などは、只の一人も見当らなかった。中尉自身が生命をとりとめたことは奇蹟としか思えない。
 中尉は、溜息《ためいき》をつきながら、屍のうえを匐っていった。モグラ下士のいったロケット爆弾を一眼見たいと思ったからであった。
 くの字形になったベトンの角を一つ曲ると、次の塹壕の突きあたりのところに、なるほどモグラ下士のいったロケット爆弾らしいものが、緑色の巨体を横たえていた。
「ははあ、あれだな」
 と、中尉が、その方に向って、また匐い出そうとしたとき、そのロケット爆弾が、ほんのすこしであったが、ごろんと動いたようであった。
「おやッ」
 中尉は、思わず足をとめて、その場にがばと伏せをした。
 なぜだろう。そのロケット爆弾が、動いたのは?
 すると、爆弾の胴中に、ぽこんと四角な穴が明いた。そして、その穴の中から、潜水服のようなものを着た怪人物が姿をあらわし、爆弾から立ち出でると、のっそりと戦友の屍を踏まえて、突っ立った。
 これを見たカモシカ中尉の愕《おどろ》きは、なににたとえたらいいか、とにかくびっくりして、心臓の鼓動が、ぴたりと停《とま》ってしまった。


   偵察

 緑色のロケット爆弾の巨体から、のっそりと立ち現われた怪人物は、一人ではなかった。
 カモシカ中尉とモグラ一等下士とのおどろきを尻目に、不発爆弾の中から出てくるは出てくるは、あとからあとへと立ち現われて、しまいには、かれこ
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