明猫」の見世物《みせもの》を見て、そのあやしい猫にさわった者ばかりであったが、そういうことがはっきりするには、それから五日もかかった。
その間に、全市の透明人間は、ますますかずがふえていった。透明になった者が誰かのからだにさわると、かならずその人のからだがやがてもうろうとなって透明化することが分った。つまり伝染性があるのだ。
大きな恐怖がひろがっていった。だが、このさわぎは、事件発生後七日目に急に解決することとなった。
というのは、はじめの「透明猫」をつくった羽根木博士という学者が、その筋へ名乗り出たからである。
博士の研究は、肉体の透明化にあった。からだを、空気と同じ反射率、屈折率《くっせつりつ》をもたせることにあった。博士は、かびの一種が、そういうことに強い働きのあることを発見し、自分の研究室でそのかびを培養《ばいよう》しては、いろいろな虫やモルモットや猫に植えていたのである。
例の猫も、前足と後足とをそれぞれしばり、かびを植えた直後だったが、その後足のひもがとけたので、研究室から外へにげだし、崖の下へおちた。そのとき青二が通りかかって猫を拾ったわけだ。
しかし青二は猫にさわったので、青二もまた透明になった。見世物小屋でこの猫にさわった連中も、みな同じことだった。博士は、そのかびを殺す薬を用意していたので、それを注射することによって、透明人間たちはみんなもとの不透明にもどることが出来た。
青二も今はうれしく自分の家へもどることができた。六さんも心を改め、もうけをほんとうに山わけにした。青二のお母さんも、青二がもどってきたので大よろこびであった。のこる問題は、羽根木博士の研究のことであるが、博士は今まで発見していなかったこの研究の結果を、どういう方面に活かして使おうかと、今、考え中だそうである。
底本:「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」三一書房
1992(平成4)年2月29日第1版第1刷発行
入力:海美
校正:もりみつじゅんじ
2000年1月22日公開
2006年7月25日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング