と立ちのぼるのを見上げて、不審の面持だった。――
今でも帆村荘六は、あの“東京要塞”と僭称《せんしょう》していた某大国の秘密砲台の位置発見に大功《たいこう》をたてた自記地震計のドラムを硝子《ガラス》張りの箱に入れて、自慢そうに持っている。その黒いドラムの上には、あの特徴のあるとんとんとんととんという地響が白い線でもって美しい震動曲線を描かれてあった。そしてその下には、
「昭和×年十二月七日、某大国大使館裏にて観測」と説明がうってあった。そして彼は得々として客に云うのであった。
「――だから僕はいつも機会あるごとに唱《とな》えていたものですよ。外国の大使館なんてものは、すくなくとも丸の内|界隈《かいわい》に置いとくものじゃないとね。あの“東京要塞”の巨砲ですか。あれはマール号が本国から持ってきたんですよ。どうしてといって、つまりあの忠魂記念塔の中に隠して大使館内に持ちこんだのですよ。全く某大国にも頭脳《あたま》のいい人がいますよ」
底本:「海野十三全集 第5巻 浮かぶ飛行島」三一書房
1989(平成元)年4月15日第1版第1刷発行
初出:「サンデー毎日」毎日新聞社
1938(昭和13)年1月
入力:tatsuki
校正:花田泰治郎
2005年5月6日作成
2009年7月31日修正
青空文庫作成ファイル:
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