なんとよく働く女だろう。一体何故そんなに働かねばならないのか――。
ちょうどそのときだった。この部屋へつかつかと足早に入って来た者があった。部長刑事の佐々という三十男で、主任大寺警部の腕の一本といわれる腕利きだった。
「お話中ですが……」と彼は断った後、大寺警部の前へ白い布に包んだものを出して拡げてみせた。それは一挺のピストルだった。
「ピストル? どこにあった? 一件のか……」
と警部は昂奮して早口に訊いた。
「そうらしいです。一発発射しています。このピストルを見付けたのは、家政婦の部屋の中です」
「なに家政婦の部屋の中に、このピストルが……」
期せずして大寺警部と長谷戸検事の視線とがぴったりと抱き合った。
そのうしろでは、さっきまで睡むそうな顔をして欠伸を噛み殺していた帆村荘六が、今は別人のようなしっかりした表情になって、室内の誰からも一時忘れられているお手伝いのお末の、しなびた顔にじっと見入っていた――。
花活《はないけ》の中
ピストルの発見は、検察官一同を総立ち同様にまで昂奮せしめる力があった。
中にも、最も衝動を受けたのは主任警部の大寺だった。彼は、この事件の犯人を、今本庁に引いていって拘置してある土居三津子だと、自分の心の中には確信していた。只いささか満足するには欠けることは、三津子が旗田鶴彌を射撃するに使ったピストルが発見されないことであった。ところが今やそのピストルらしいものが、同じ惨劇の旗田邸の屋根の下に於て発見せられた。が、その場所がどうも気に入らない。家政婦小林の部屋の中に発見されたからである。
「一体このピストルは、どこに在ったのかね」
と長谷戸検事は、ピストルの発見者の佐々部長刑事に尋ねた。
「それは家政婦の部屋を入ったすぐ右手に茶箪笥がありまして、その上に口の広い磁器の花瓶が載っていますが、その中に隠してあったのです」
佐々は手真似もして、それを証明した。
「花が活けてある花瓶かね」
「いえ、花は挿してありません」
「じゃあ空かね」
「はい。今ここへ持って参りましょう」
「いや、こっちから行くよ」
検事は腰を上げた。
そのときお末を監視していた巡査がお末はこのままにして置くのか、元の部屋へ帰らせていいのかを検事に尋ねた。
「ああ、元の部屋へ行って貰おう。やっぱり外出は厳禁だよ」
検事はそう言い置いて、家政婦
前へ
次へ
全79ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング