ものですか」
「遺産は、誰方が相続することになっていますか」
検事の追及は急だ。
「知りませんね。ひとつ兄貴と関係のある弁護士の間を聞き廻って下さいませんか。そうすれば遺言状があるかも知れませんからね」
「戸籍面から見ると、あなたが相続されるのじゃないですか」
検事は、悪いことではあったけれど、ちょっと知らないことだが鎌をかけて訊いた。
「私じゃないです。兄貴の庶子に伊戸子という女の子が出ていますよ。よくお調べになったがいいでしょう」
「なるほど」検事は失敗《しま》ったと思って冷汗をかいた。「そのイト子さんは、今どこに居られますか」
転んでも只は起きない性分の長谷戸検事であった。
「知らんですなあ、兄貴の痴情を監視するつもりはなかったもんですからね」
検事は亀之介から連打されている恰好であった。すると傍にいた大寺警部が、横合から亀之介に声をかけた。警部は検事の痛打を見るに見かねて、ここで一発亀之介に喰らわさねばと飛び出したわけである。
「あんたはそのイト子という婦人を見たこともないんですか」
「さあ、どうですかねえ」
「見たか見ないか、はっきり答えて下さい」
「見たかも知れず、見ないかも知れない――おっと怒鳴るのは待って下さい。私はこれが伊戸子だと正面から紹介されたことはない。しかしいつどっかで、その伊戸子という婦人を見たかも知れませんからね。例えば兄貴のところへ忍んで来る女の中に伊戸子が交っている場合もあり得るわけですからね」
「ずいぶんひねくれたいい方をするのが好きなんだねえ」
と、警部は忌々《いまいま》しげにいった。
「ひねくれているわけではありません。私は何事もはっきりさせたいから、正しいいい方をしているわけです。しかるに……」
「ああ、もうそのへんで結構です」と検事がいった。「また後で伺うことがあると思いますから、今日はこの家の中だけでお暮し下さい」
そういって検事は、警官のひとりに合図を送った。
亀之介は、火の消えた葉巻煙草にライターの火を移した上で、悠々と椅子から立上って警官のうしろについて広間を出た。
意外な発見
「いやにひねくれた奴ですなあ」
大寺警部は戸口の方をちょっと流し目で見て、呆れたような声を出した。
「ああいう態度は損なんだがねえ……」
と、検事は忘れていた煙草を今思い出したという風にポケットから出して口に啣え
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