亀之介訊問の意図をはっきりさせた。
 外に感想はと、帆村が重ねて聞くと、大寺警部は笑いながらいった。
「君はひどいね。亀之介をうまくひっかけたじゃないか。芝山は押入の中に入っていたが、入って来た人物の顔を見なかったというのに君がさっき亀之介にいった話は、芝山が亀之介を見たように聞えたよ。もっとも君は、芝山が見たとはいわなかったが、亀之介はあれで見られたと思って恐れ入ったのだろう」
「いや、あれは苦しまぎれの手段です。見のがして下さい」
 と帆村は頭を掻いた。帆村の要請で、次にこの部屋へ呼び出されたのは家政婦の小林トメであった。
「小林さん。この前もあなたによく見て調べてもらったんですが、もう一度調べてもらいたいのです。ここに写真がありますがね……」
 と帆村は、死者の前にあった小卓子の上に並んでいる皿や酒壜や灰皿などの写真を小林の手へ渡し「このテーブルの上に二十七点ばかりの品物がのっていますがね、この中からあなたがあの晩この部屋へ持ちこんだ物はどれとどれですか、選って下さい」
 この質問をうけて、家政婦の顔はゆるんだ。彼女は、また芝山との関係について突込んだことを訊かれるのだろうと恐れていたらしかった。
「はい。わたくしのお持ちしたものは、この皿と、この皿と……」
 と、家政婦は十四点をあげた。帆村は一々それに万年筆でしるしをつけた。
「それではね、こんどは残りの品物の中から、いつもこの部屋にあって、あなたに見覚えのある品を選ってみて下さい」
「はい。……しかしあとは全部そうなんですけれど……おや、この缶詰は存じません」
「まあ一々指していって下さい」
「はい」
 家政婦は、彼女が写真の中の品物を指している間に、傍にいる帆村がけしからず荒々しい呼吸をしているのに気がついて、いやらしいことだと思った。――写真の中には、さっき彼女がいったとおり、一ポンド入りの空き缶が一つ残った。
「この缶詰に見おぼえがないというんですね。間違いありませんね」
「旦那さまが御自分で缶詰をお買いになって、御自分でこっそりおあけになるということは、今まで一度もございませんでした。ふしぎでございますわねえ」
「いや、ありがとう。あなたにお伺いすることはそれだけでした」
 家政婦は、いそいそとこの部屋から送り出されて行った。
 検事も警部も、帆村が手に持っている写真のところへ集って来た。
「うむ
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