慈さんたちは、今そこに現われかけています」
と、オルガ姫は、私のうしろを指した。
「なに、現われかけている」
私は、うしろをふりむいた。そして、あっと愕きのこえをあげた。広間の隅に、久慈たちが朦朧《もうろう》と立っているのであった。しばらくすると、その姿は、はっきりとして、常人と同じになった。とたんに久慈たちは、非常な驚愕《きょうがく》の色をあらわし、折り重なって、私の前に倒れた。
私は、久慈たちが、どこにいっていたかを、悟るところがあった。彼等もまた、X大使のために、四次元世界に放りこまれていたのにちがいない。そして大使はこのクロクロ島を去ると共に、久慈たちをもとの場所にかえしてよこしたのに相違ない。
私は、久慈たちが、落着《おちつき》を取戻して、仔細《しさい》を物語ってくれるのを待つことにした。
今クロクロ島は、森閑《しんかん》としずまりかえり、只《ただ》久慈たちの吐息《といき》だけが、大きく聞えている。このとき私は、わが地球が、近き将来、金星に向って喰うか喰われるかの大宇宙戦争を開始すべく運命づけられていることを、はっきり胸にきざみつけられた次第である。
日本要塞の武装が、やがて更に発展して全世界に拡がり、「地球要塞」となる日も、決して遠い将来ではないであろう。いや、金星のブブ博士は、今より三十年後には、地球が一大要塞化することを見極《みきわ》めて報告していたではないか。地球上の戦争は果てても、戦争は更に宇宙へ向って延長し、戦争の果てる時は遂《つい》に永遠に来ないであろう!
底本:「海野十三全集 第7巻 地球要塞」三一書房
1990(平成2)年4月30日第1版第1刷発行
初出:「譚海」
1940(昭和15)年8月〜1941(昭和16)年2月号
※底本の「わが撤いた」を「わが撒いた」に改めました。
入力:tatsuki
校正:土屋隆
2004年5月31日作成
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