は、それをクロクロ島の水槽の破損個所へ引いていった。
 工作潜水艇の横腹からは、長い二本の熔接具《ようせつぐ》が伸びていった。オルガ姫は、それを手につかんで、器用に熔接をしていった。
 熔接が終ると、次は、水槽内の水を、艇内の喞筒《ポンプ》でもって、吸い出しにかかった。これは、大して面倒なことではなかった。
 煌々《こうこう》たる水中灯の光を浴びて、クロクロ島の巨体は、やがてしずかに浮き上りはじめた。
 すっかり浮き上ったのは、作業を始めてから、わずか十時間のちのことであった。洋上は、二十三時で、真暗《まっくら》であった。洋上は浪《なみ》しずかで、空には、星がきらきらと瞬《またた》いていた。
 私は、オルガ姫を伴って、水上に浮かびあがった工作潜水艇から、クロクロ島へと、乗りうつった。
 まずクロクロ島の内部へ、いろいろな方法で信号をしてみた。だが、私の予期したように、何等《なんら》の応答もなかった。
 そこで、やむなく、私は、入口の鉄扉《てっぴ》を明けにかかった。いろいろの道具をもってきて、試みてみたが、扉はぴたりと閉ったままで、なかなか開きそうになかった。
 そこで私は、オルガ姫を、再び水中にもぐらせて、クロクロ島の底に、外に向って開いている排出孔《はいしゅつこう》から、逆に入りこませることにした。もちろん、そこにも三重の鉄扉があるが、開けることは、それほどむずかしくないのであった。
 私が、クロクロ島の背中で待っていると、それから十分ほどして、足許《あしもと》で、ぎいぎいと音がしはじめた。
「おお、オルガ姫が、入口の扉を開けているな」
 そう思っているうちに、果して鉄扉が開いた。内には、明るい電灯の光が見える。
「ほう、とうとう、クロクロ島へ戻ってこられたわけだ。どれ、中はどんなことになっているか」
 私は、久慈《くじ》たちのことを思い出した。久慈たちにクロクロ島をあずけておいたが、その後、彼からの通信は来ず、そのうえ、クロクロ島は、洋上を漂流しているなどと、非常に憂慮《ゆうりょ》すべき事態の下にあったのである。私は、島内において、どんな光景が見られるかと胸を躍らせながら、階段を下っていった。
「おお!」
 私は、階段の途中で、思わず呻《うめ》いて、そこに立ち竦《すく》んだ。
 見よ。島内には、久慈たちの姿はなく、その代りに、X大使が、厳然《げんぜん》と立って、
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