あ、艇を、ここから東北東|微東《びとう》へ向けて走らせよ。いや、要するに、紀州の南端《なんたん》潮岬《しおのみさき》へ向けて見よ」
「はい。潮岬へ来ました」
「おお、もう来たか」
私は、室戸崎から潮岬までが、ベトンで、ずっと続いているのを発見して愕《おどろ》いた。
「オルガ姫、こんどは、東京へ向けてみよ。途中、富士山にぶつかるだろうから、その地点を忘れないで教えて、ちょっと停めよ」
「はい」
潜水艇の針路は、すこし北へ修正された。
不思議なベトン塔――とにかく東京までゆけ
「ここが富士山の位置です」
オルガ姫から注意されて、私は、また更に愕いた。
「富士山は、ここかね。山なんぞ、ありはしないが……」
どう見まわしても、富士山らしいものはなかった。このとき艇は、海面下わずかに一メートルのところを走していたのを、ぴたりと停めたわけであるが、このとき見えるのは、艇の下、約七、八メートルのところに、なんといったらいいか、恰《あたか》も並べられた大きなパンの背中を見るような感じのするベトンだけであったのだ。やや凸凹はあるものの、山らしい形のものは、さっぱり見当らない。
「ふしぎだ、ふしぎだ」
私は首をふった。
「オルガ姫とにかく東京までいってみろ」
「はい」
東京へいっても、おそらく同じことであろうと思ったが、東京へついてみると、やっぱりそうであった。見えるのは、すべすべしたベトンの背中ばかりであった。
「ふうむ、やっぱり同じことだ。オルガ姫、艇をこのまま沈ませて、しずかに、あのベトンのうえにつけよ」
「はい」
艇の底は、まもなく、ベトンの上に触《ふ》れた。微《かす》かな反動があった。
「しばらく、ここで休むことにしよう」
私は、ここでしばらく憩い、最前《さいぜん》から解き切れない謎を、どうにかして、ここで解いてしまうつもりであった。
さあ、一体、祖国日本は、どうしたというのであろう。
私の観察したところによると、感じからいうと、日本の陸地が、化石《かせき》になって(陸地が化石になるというのはおかしい云い方だが)、そして海底にしずんでしまったとでも云い現わしたいところだ。
その一方において、富士山がなくなり、その代りでもあるように、紀伊《きい》水道が浅くなってしまって、ベトンの壁が突立っているのであった。一体、どういうわけであろう。
わか
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