が優勢らしい。米連の艦隊は、煙幕の中に隠れているが、その半数は爆撃のため損傷をうけ、傾いている。惨状《さんじょう》は、目を蔽《おお》いたいくらいだ。その中に、旗艦ユーダ号が、なおもひらひらと司令長官旗を掲げ、陣頭に立っているのは、むしろ悲壮な感じがした。この様子では、ピース提督も、間もなくユーダ号とともに、海底に沈んでしまうことであろう。
私は、両軍の大死闘をもっと見ていたかったが、それよりも祖国のことが心配になるので、興味あるその戦場を、ほんの十数秒の間にすりぬけてしまった。
それから一時間ばかり経った。もうそろそろ、東京港のシグナルが聞える筈であった。が、一向に、それが聞えない。そのうちに、潜水艇が急に速度をおとしてしまった。
「どうした、オルガ姫」
「たいへんです。東京港の潜水洞があった場所まで来ましたが、肝腎《かんじん》の潜水洞が見えません」
「場所がちがっているのではないか、よく探してみろ」
「いいえ、間ちがいなく此処《ここ》なんです」
ああ日本国消滅か――潜水艦の針路を北へ修正した
東京港のシグナルもきこえなければ、艇をつけるべき潜水洞も見あたらない。私の胸は、早鉦《はやがね》のように鳴りだした。
「オルガ姫。一体これは、どういうわけだろうね」
私は、思わず、こんなことを口走った。
オルガ姫は、それに応えなかった。オルガ姫は人造《じんぞう》人間だから、わけのわからぬことをたずねても、だめである。人間ならば、意見をいうであろうが、彼女には、それができない。
「弱ったなあ、どうすればいいのだ」
私は、潜水艇の中で、われるような頭を抱えて、呻吟《しんぎん》した。
いい考えが浮かばない。不安の影が、ますます濃く、そして大きく拡がっていくのであった。祖国日本が、そのままそっくり、天外にとび去ったのではないかと、妙な錯覚を起したくらいであった。
三十分ばかり、私は、地獄の釜の中で茹《ゆ》でられているような苦しみを経験した。が、その後になって、多少気分がおちついてきたように思った。私はようやく考える力を取戻したのだった。
「そうだ。そのへんに、どこか上陸のできる場所があるはずだ。そこを探して、上へあがってみよう」
私は、オルガ姫に、新しい命令を出した。
「オルガ姫、上陸地点を探して、艇をそこへつけたまえ」
「はい」
艇のエンジンが、再
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