やしないよ。そうじゃないかね」
「君の説に賛成するよ」
 その場において反対する者はなかった。
 だが、ワーナー博士一行の所在をつきとめる方が早道だという者と、発信者を探したがよい、殊に第二報が聞えたら、すぐ無線探知器を使って発信者の位置を決定する[#「決定する」は底本では「決定をする」、70−上段−12]用意をなすべきだという者と、方針は二つに別れた。
 記者たちは、経験と勘と、そして自動車と飛行機と電波と金とを利器として、四方八方に活動を開始した。
 こんなことがどの通信社にも新聞社にも起った。正にヘルナー山頂に坐礁したゼムリヤ号事件以来の特種であった。いや、ゼムリヤ号事件から続いて起った事件だから、通信従事者の昂奮もまたすばらしく大きかったのである。

  高等生物団

 第一報発表以後のわずか十八時間に、各社の第一線記者は悉くへたばってしまった。あらゆる探索は失敗に帰し、何の収穫も手に入らなかったのである。
 アイスランドは勿論のこと、大西洋全域から、各国の重要都市が一つ残らず探索されたけれど、どこにもワーナー博士一行の新しい消息も見当らず、聞き当らなかった。第一報の電波発信者も分らず、この電波を発射した位置も分らなかった。そして今にも入るかと思った第二報はいつまで経っても音沙汰がなかった。
 このような失望と困憊のあとに、突然として待望久しき第二報が、WGY局から放送されたのだった。
 無線探知器の前に頑張っていた無線班の連中は大失望した。第二報がWGY局放送局より放送される前に、何処からかWGY局へ第二報の原稿を電波で送る者がある筈で、それを捕えようと待構えていたのだ。ところがそれは遂に入らないで、いきなりWGY局が放送を始めたから、彼等ががっかりしたのも無理ではない。
 だが、社の首脳部たちは一向構わなかった。それは、新たに発表された第二報の内容が非常に驚愕すべき、そして重要なものであったからだ。――第二報は、次のように報じている。
“――既報の大西洋海底に蟠居する怪人集団は、従来地球上にその存在を確認されたことのない高等生物の集団だと認むべき理由が発見された。但し彼等が、地球外の宇宙より侵入せるものか、或いは以前より海底又は地中に生存していたものが今回われらの目に触れたものであるか、それはまだ判別できない。いずれにせよ、彼等の出現により、われら世界人類は突如として測り知ることの出来ない脅威に曝されることとなった。目下のところ彼等怪人集団の勢力は大したものではないが、われら世界各国民は一致協力して、直ちに大警戒を始めねばならない。世界各国はこれまでの対立を即刻解き、その総力を結束して、われら地球人類の防衛に万全を図らねばならない”
 なんという驚愕であろう。「従来地球上にその存在を確認されたことのない高等生物の集団」が大西洋の海底に蟠居していることが発見されたというのである。アメリカン・インディアンが白人コロンブス一行を迎えたときの驚愕、エスキモー人がロシア人を見たときの驚愕などは、今回の事件に比べると桁ちがいの小さい驚愕だ。世界の全同胞にとって恐るべき険悪なる事態が急にやって来たのだ。彼等は一体何物? そして彼等に対し、如何なる手段をもって如何に対すべきであろうか。
 政治家も軍人も財閥も技術者も科学者も、この驚異的事態を真に了解した者は、いずれも皆茫然自失の結果、虚脱状態となってしまった。どうしたらいいのか、何も考えられない。どこから手をつけてよいか皆目わからないのだ。これが人間同士なら北の涯の者と南の涯の者の間にも、言葉は通じなくとも何とか意志を通ずる方法もあるし、相手の気持も能力も信頼度も、まず大体察知し得られる。ところが今の場合のように、これまで全然|交際《まじわ》ったことのない高等生物に対するということになると、どうしてよいか、どこから始めていいか、さっぱり、見当がつかないのだ。
 時刻が移るに従って、事態はいよいよ深刻化していった。それは第二報が警告している内容の如何に重大なるかが世界各国にぼつぼつ分りかけて来たからであろう。
 それでも世界の一部には懐疑病に取憑れた政治家があって、その報道の荒唐無稽なること、それが某国のためにする神経的威嚇であるとして攻撃を加えた。しかしこういう人達は、恐らく頭上に原子爆弾が落ちても、身は真黒焦になってしまった後でも、原子爆弾の威力を信ずるとはいわないひねくれ者一派にちがいなかった。そういう一派はいつの世にも必ず棲息しているものだ。
 世界連合の臨時緊急会議がロンドンで開催せられた。これはいわずとしれた、大西洋海底の怪人集団に対するわが全世界の態度と処置を議するためのものだった。
 その会議は、なかなか纏《まとま》らなかった。それは怪人集団に対する全世界の歩調一致
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