。
余は、それを悉《ことごと》く映画におさめたので、本日、なんかの便《びん》を得て、そちらへ送ろうと思う。原稿の方はすぐ続いて打電するつもりだ。只今、炊《た》き出しを呉れるというから、これで一応報告を切る。こちらの炊《た》き出しは豪勢《ごうせい》だ。七面鳥のサンドウィッチに、ウィスキーの角壜《かくびん》、煙草はMCCだ。
(×月×日、グラーフ・シュペー号にて)
しばらく通信を怠《おこた》っていたが、余は三たび艦船をかえ、今は独国|豆戦艦《まめせんかん》グラーフ・シュペー号上で、安泰《あんたい》に暮している。余が、何処より、本艦に乗込んだか、それは語ることを許されない。しかし諸君が、北海《ほっかい》の地図をひき、ユトランド諸島のあたりを子細《しさい》に検討するなら、そこに或る暗示を得るだろう。
本艦の位置も、これまた遺憾《いかん》ながら、語る自由を持たない。ただこういうことだけは言ってもいいだろう。それは毎夜の如く南十字星《みなみじゅうじせい》が、美しく頭上に輝いている事だ。但し、プラネタリゥム館へ入っている訳ではない。
シュペー号では、ラングスドルフ艦長以下が、余を親切に扱って
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